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レストランの完成

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竜園地の一行がやっと氷竜の領域を突破した。

結局癇癪を起こしたりはせず、マッピングしてから秘密に気付いたようだ。

最初の頃と比べると慎重になったものだ。

それもそうか。本来なら死んでた回数が二桁越えてるからな。

「次は地竜の領域か。速さが鍵だろうな」

「わかるのですか?」

「うん。多分。火を力、氷を知識、風を素早さ、地を忍耐をコンセプトにして作られたと考えるとこの領域をどうやって攻略すればいいかおのずとわかってくる」

「なるほど」

火なら反属性である氷にあたる知識、風なら地にあたる忍耐で攻略と考えると、次の地竜の領域は風にあたる速さで勝負になると考えられる。

それに気付けば領域突破も早まるだろうが・・・無理そうだな。

疲労困憊で次の宿で休んでいる様子を見るとそう思えてくる。

それでもなんだかんだで突破できているのだから、何度も繰り返し挑戦すれば活路は見出せるだろう。

頑張って欲しい。



オアシスの街の密林騒ぎは落ち着きを見せてきている。

というのもきっかけは愚かな大商人が密林に火を放った事だ。

大勢の人を雇って向かったが、侵入すらまともに出来ず、痺れを切らして火を放ったようだ。

生木というのは案外燃え難い上、動物を襲うここの木が多少の炎で動じるわけもなく、燃え広がる事はなかった。

よくこんな奴が大商人にまでなったなと思っていたが、そうやって悪どい方法でやってきた事は必ず清算の時が来る。

今回の事を耳にしたオアシスの街上層部の怒りを買い、大商人とその関係者、質の悪い雇われ冒険者達は街に戻ると瞬く間に捕らえられ、全財産没収後、街の外へ追放となった。

同時に街は密林へ無断での関与を禁止にした。

この思い切った発表により人々の密林への興味は一気に冷めるかと思ったが、街の主導で結成された密林調査隊の第二陣が出発した事により逆に街は盛り上がりを見せた。

街の上層部のこの動きは今回の一連の事をまるで見越していたかのような手際の良さだった。

これにより変な連中は大人しくなり、住民達は求めたものが手に入り、そして安定的な密林の調査も可能になったわけか。

凄いな・・・。

神の仕事をやらせたら俺より上手く運用するんじゃないかと思えてくる。

草原の街もそうだが、栄える理由がそれぞれある事を感じさせる。

この栄える理由が崩れると人は自然と離れて行く。

まだそういうところをは目にしてないが、オアシスの街の西には何かしらあると予想はしている。

今のところ西からは来る人ばかりで向かう人はいない。

興味はあるが、わざわざ神力を使って見に行く必要もないだろう。

今は密林調査隊の様子の方が気になる、というかまだ心配。

信者も含まれているし、今回も無事で居てほしいものだ。



今日は農園に来ている。

レストランの内装が完成したので是非見に来て欲しいと連絡があった。

「こんにちは、ソウ様」

「やぁ、こんにちは、ユキ」

「あれ?サチナリア様は?」

「あぁ、さっきルミナに連れ去られてった」

「えぇ・・・」

相変わらずあの二人は仲良しなようだ。

「内装が出来たって聞いたから見に来たよ」

「ありがとうございます、ご案内します」

「よろしくー」



ユキに案内されてレストランの中に入ると以前の何もない空間とは別世界になっていた。

木を基調にした温かみのある雰囲気、農園だけあってインテリアも緑を多く使っていていい。

「どうででしょうか」

「凄くいい。想像通り、いや、それ以上かな」

「あ、ありがとうございます」

既にテーブル席にはちらほら人が座っており、各々お茶を楽しんでいるようだ。

「もう料理は出しているのか?」

「はい、一応。今のところシャーベットのみですが」

「他は?」

「まだ研究中というのもありますが・・・」

ユキが少し言い淀む。

「何か問題でも?」

「はい。最近になってわかってきた事なのですが・・・」

とりあえず適当に空いてる席に座って話を聞く事にした。

ユキの話によると、どうも料理の腕が一定から上達しない、または上達が遅い人が数人いることが判明した。

包丁の扱いなど技術的な部分は根気よく教えれば問題ないのだが、味付けや盛り付け、素材選びのセンスがひどいらしい。

「今のところここで出している料理は私を含めた数人が作ったものなのですが、将来的にはみんなが作った料理を食べてもらいたいとルミナテース様が言うので」

「なるほど。そういう人達はどういう味付けするんだ?」

「どういう・・・そうですね、異常に辛かったり甘かったりする事が多い気がします」

なるほど、何となくわかった。

「もしかしてその人達って農園で辛い作物とか刺激の強いものの担当してなかったりしてないか?」

「え?・・・あ!」

何か思い当たる事があるようだ。

「た、確かに彼女達は辛い作物の担当の人達ばかりです。どうしてわかったのですか?」

「多分収穫の際とかに頻繁に味見してたんだろう。それで自然と舌が強い刺激に慣れてしまって味覚が低下してしまったんじゃないかな」

辛味は味じゃなくて刺激だからな。

何度も同じところを叩いていると痛覚が麻痺して何も感じなくなるのと似ている。

「ど、どうしましょう・・・」

「うーん、担当を外れてもらうっていうのも出来ないだろうしなぁ。味見の回数を減らすとか、別の人に頼むとかして舌へ刺激を減らすようにすれば自然と戻ると思う」

「わかりました、ルミナテース様に提案してみます」

「うん。味覚が戻ったかどうかは薄い砂糖水を一滴舌の上に乗せて味がわかるか確かめるといい」

「わ、わかりました。ソウ様は本当に凄い方ですね」

「そうか?」

「色々と知っていますし、尊敬します」

「ははは、ありがとう」

本当は謙遜したいところだが、素直に受け取り礼を言う。

これも神の立ち振る舞いに必要なことだと前にサチに言われた。

別に偉ぶる必要はないが、人々から向けられる好意は素直に受け取る方が向ける側の印象がいいらしい。

まだまだ慣れないが、少しずつこういう言い回しに慣れていくのもこの世界で神として生きていくに必要な事だ。頑張ろう。

その後ユキが淹れてくれたお茶を堪能しつつ料理の話で盛り上がる。

そういえばユキは前はもっとおどおどしてた子だった気がするが、最近しっかりしてきたな。

料理を知ってやりがいを見つけたのか、教える側になって自信がついたのか、とにかくいい傾向だ。

話しているとリミ、ワカバ、モミジがやってくる。

「あ、ソウ様。いらしてたのですね」

「やぁ、リミ。それにワカバとモミジも」

「こんにちは!ソウ様!」

「こんちゃすー」

彼女達が席に着くとテーブルが一気に華やかになる。

話題の内容も料理に限らず日常で起きた事、農園の人の話、内装をしてくれた造島師の話、色々に広がる。

俺は聞き手にまわり、彼女達が楽しそうに話すのに相槌を打つ。

すると今度はそこにサチとルミナが来る。

ルミナは肩を落とし、逆にサチは嬉しそうだ。

「ソウ、聞いてください!二勝目です!」

「凄いじゃないか。どうやって勝ったんだ?」

「今日はシロクロで勝負しました」

「うぅ・・・まさか全滅なんて・・・」

あー・・・ルミナも全滅させられたのか・・・。あれ心が砕け散るよな、わかる。

「サチナリア様、シロクロとはなんですか?」

リミが興味ありげに聞くとサチは空間収納からシロクロの道具一式を出してテーブルに並べて説明をする。

「へー、面白そうですね!やってみてもいいですか?」

「えぇ、どうぞ」

「じゃあワカバの相手は私がするわ」

「ふふん、リミちゃん負けないからねー!」

勝負はリミの圧勝だった。

ワカバは正面突破というかなんというか、攻め方が単純すぎる。

その後ユキやモミジもやったがそれぞれ性格が出て面白い。

やはり一日の長があるせいなのか、元々こういったのが得意なのか、この中ではサチが飛びぬけて強い。

気付けばテーブルの周りには見物人が沢山来ており、皆興味深そうに見ていた。

「そうだ。なあサチ、これここに置いていくのはどうだろう」

「シロクロをですか?」

「うん。皆興味あるみたいだし」

「いいと思います。今度別の何かを作ってくだされば」

そうだな、これは俺じゃもう相手にならないしな。今度別の何かを作ろう。

「勝手に決めちゃってるがルミナもそれでいいか?」

「それはもちろんよ!ふふふ、これでサチナリアちゃんに勝つまで特訓できるわ!」

「フッ、無駄な足掻きを」

毎回思うけど仲良いね君ら。

「細かいルールは任せるが、料理を食べる場所だから、こっちに集中しすぎて料理を蔑ろにしないようにしてくれ」

「心得ました」

さて、どうやらサチがシロクロをやるみたいだからその間に調理場とか見せてもらおうかな。



ユキに引き続き案内してもらい、一通り見せてもらう。

色々な場所で農園の人達や造島師のこだわりが見れて楽しかった。

特に調理場ではコンロ、蛇口、換気などに精霊石が使われていて勉強になった。

追加で何か設備を足しても大丈夫なような空間もあったし、今後も改良を加えていくようなので楽しみだ。

「ソウ様、今日は何か作られていきますか?」

相変わらずユキは料理に対して貪欲だ。

どんどん俺から技術を吸収しようとしている。

「んー、そうだなぁ・・・。あ、ルミナの技術ってユキから見てどうだ?」

「ルミナテース様ですか?何事にも前向きに取り組んでいますよ」

「上下関係抜きで」

「え、えっと・・・。力に頼る事が多いので、正直伸び悩んでいます」

「なるほど。ルミナ、ちょっと」

遠巻きにサチのシロクロを見ていたルミナを呼ぶ。

「はいはーい。なんですか?ソウ様」

「ちょっと何か一品作ってくれ」

「え!?」

「簡単なものでいいから」

「え、でもでも、それならユキちゃんの方が美味しく作れると思いますよ」

「いいから」

「わ、わかりました。やってみます」

調理場に立たせて調理の様子を一部始終観察する。

フライパンを出した辺り焼き料理をするようだ。

ほう、シンプルに焼肉か。

「どうぞ」

「うん。いただきます」

ふむふむ、なるほどね。

「どうでしょうか」

「最初の頃に比べたら大分料理らしくなってきたな。味付けも悪くない」

「あ、ありがとうございます!」

「ちょっとアドバイスしよう。ユキも一緒に見て、後でみんなに教えてやってくれ」

「は、はい」

今度は俺が調理場に立って残った食材で同じように作る。

「ほい。自分のと食べ比べてみて」

「・・・!な、なんで?」

食べ比べたルミナが左右の皿を見比べる。

「料理ってのは使ったものは同じでも、切り方、焼き方、味付けのタイミングや順序、そういうのでも変わってくるんだ」

「なるほど」

「その辺りに気をつけて練習すれば更に上達すると思う」

「はい、がんばります!」

「それで本題なんだけど、そろそろサチを唸らせるための課題を出しておこうかと思う」

「課題、ですか?」

ルミナにサチに出す料理のプランを教える。

「私にできるでしょうか」

「やれなきゃいつまでたっても友達認定されないと思うぞ」

「う・・・がんばる、がんばります!」

俺としちゃ既にあの仲の良さは友達関係だと思うんだけどね。

サチは変なところで意地っ張りな部分があるからなぁ。

「合否の判定は農園の皆にしてもらってくれ。ユキ、悪いが頼むよ」

「お任せください。厳しくいきますね」

「うぅ、今までも結構厳しかったのにー」

「ははは、がんばれ」



農園から転移場所までの帰り道、少し考え事をする。

ユキの料理の才能は想像以上に凄いかもしれない。

抜かれる事は時間の問題だろう。

それはとても喜ばしい事だ。

だが、教えることが無くなった時、俺は彼女に何が出来るのだろうか。

「ソウ、どうしました?」

「ん?あぁ、そのな」

今思ってた事をサチに言う。

自分で抱え込んでも答えが出そうにないから正直に話してみる。

「ソウらしい悩みですね」

「そうかな」

「その答えは学校に行ったときに学校長に聞いてみてはどうでしょうか。彼女も教える立場ですから」

「なるほど。教える事の専門家だもんな。そうしよう」

泳ぎを教える事になってたし、丁度良かった。

行くのが楽しみだ。
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