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月光族の村

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今日は月光族の村の方を観察する。

月光族の村は港町から西に少し行ったところにあるのどかな村だ。

港町の付近には狩猟に向いた森があるが、この辺りは広大な平地しかないので酪農が主な産業になっているようだ。

そのせいもあるのか人馬種をはじめ草食系の亜人種が港町より多い気がする。

特にここでは畜産が盛んで特産品の乳製品、チーズやバター等保存がきく物は結構な高値で取引されている。

そしてここにはそれ以外にもう一つ目を引く産物がある。

牛乳である。

ただの牛乳なら他の地域にもいる牛から搾ったものが流通しているが、ここのは、その、なんだ、牛人種の牛乳なのである。

つまり牛系の亜人種の女性の母乳だ。

最初これを売っているのを見たときは目を疑った。

オアシスの街で牛人種が乳を有効利用しているのは遠くから見たことがあったが、ここではある程度量が確保できるので一つの産物になっているのだ。

ちなみにどのようにしてるのか気になって見ようとしたら案の定望遠状態にされてしまった。くそぅ。

ただ、心配していた非人道的な方法ではないようなので安心した。

牛人の女性の一日を追ってみたが、朝起きる、顔を洗う、乳を搾る、朝食を食べるといったような感じで日常的に行われる作業の一つとなっていた。

詳しく牛人種の女性について調べると、子供が産める年齢になると自然と出てしまい、毎日出さないと体調を崩してしまうそうだ。

それで毎日廃棄していたのに目を付けた旅人が助言をしたのがきっかけで一つの産物になったそうな。

そしてこの助言をした旅人というのが恐らく勇者だろう。

何故そう思うかと言えば、ここで売ってる瓶の形が明らかに俺が知っている形をしていたからだ。

この助言以降村の人達の牛人の乳への見方が変わり、それまで他の人達と同じ酪農作業をしていたのが見直され、今では負担が掛からない生活をしているようだ。

また、これを機に亜人種でも向き不向きがあると言う事から全体の働き方の見直しがされ、村全体が安定したらしい。

これも勇者が行った功績の一つなんだろうな。

どういう意図で助言をしたかは不明だが、良い結果を生み出しているならそれでいいんだろう。

正直言えば俺もこの牛乳は気になるし飲んでみたい。

美味しそうに、特に男子が満面の笑みで飲んでる姿を見ると尚更だ。

しかし残念ながら下界とこちらで物のやり取りは出来ないので眺めてるしかない。口惜しや。

それにこれ以上これについて観察を続けるとサチの機嫌が悪くなりそうなので別の部分へ視点を移そう。

この村の主な交流は東の港町の他に南方面にあるようだ。

村から更に西に行った和人族の城下町とは余り交流がなく、たまに和人族が訪れる程度。

和人族との交流が最低限というのは和人族側の境遇を考えると仕方がない。

それより南側に何があるかが気になるな。

うーん、この村も信者が増える気配は当分無さそうだし、しばらくは保留かなぁ。



今日は造島師の浮遊島列島に来ている。

造島師に何か新たに依頼をしに来たというわけではなく、ヨルハネキシの爺さんの様子を見に来たのだ。

先日の大収穫祭の時に若い造島師達が最近熱心に色々作ってるという話をしていたのでちょっと気になっていた。

ブラブラと小島を見てまわってから塔のある中央の島へ。

建物の中に入ると受付口にレオニーナが居た。

「いらっしゃい、ソウ様、サチナリア様」

最初に来た時より口調が砕けたものになっているが彼女だとそれが逆に親しみを感じて嬉しくなる。

「やあ、レオニーナ」

「こんにちは」

「ジジイなら今風呂に入ってるから少し待ってください」

ほう、やはり風呂を作ったのか。

「わかった。最近どうだ?」

ヨルハネキシの事をジジイと呼ぶ事も気にしないで近況を聞く。

「そうっすね、若い連中が農園によく行くようになりましたね」

「あぁ、向こうで会ったよ」

「聞いてます。なんでも料理を振舞って貰ったとかで感激してましたよ、アイツら」

そうか、喜んで貰えたようでなによりだ。

「レオニーナは農園には行かないのですか?」

「受付の仕事がありますし、若いのが土産を持ってきてくれるので。・・・なんですか?サチナリア様」

「いーえ、そういえばあちらで彼も見ませんでしたしね」

サチが半眼になって口に悪い笑みを浮かべながらそんな事を言い出した。

「ななな、なんのことですか!?ま、まったくさっぱりです!」

それに顔を赤くして反応するレオニーナ。分かりやすいなぁ。

それをみてサチがツヤツヤした満足な笑みを浮かべている。こっちも分かりやすい。

「・・・コホン。それに今農園には情報館の天機人が来てるって話なので、あまり行きたくないんすよ」

「そうなの?」

「あー・・・情報館には、その、姉貴、姉妹機がいるんです」

へー、そうなのか。

俺の知ってる子かな。

「最近やっと固有名がついたって久しぶりに連絡してきましたよ」

「おー」

「アリスって名前を付けてもらえたって大層はしゃいでましたけど」

「アリス!?」

俺とサチの声がはもる。

「な、なんすか二人して」

「いや、アリスって言ったら情報館の総館長じゃないか。レオニーナの姉だったのか」

意外だ。あのアリスとレオニーナが姉妹だったとは。

「ソウ様は情報館に行った事あるんですね」

「うん。名前付けたの俺だし」

「え!?本当っすか!?」

今度はレオニーナが驚いてる。

そして立ち上がって直立から勢い良く礼をしてきた。

「ソウ様!ありがとうございました!」

「あ、うん。どういたしまして?」

「急にどうしたのです?」

俺もサチも急な事についていけてない。

「いや、私の方が姉貴より先に名前を貰ったんで悪いなと思ってたんですよ」

「そうだったのか」

「えぇ。久しぶりに明るい姉貴の声を聞いた気がします」

「よかったじゃないか」

「はい。感謝してます」

心底嬉しそうにしているレオニーナを見ると元々の姉妹の仲は良かったようだ。

ただ、レオニーナが一歩先に進んでしまってたので姉妹間の関係がギクシャクしてしまってたのかもしれないな。

それが解決したとすると一つ疑問が浮かぶ。

「でもそれなら何故関わり合いになろうとしないのですか?」

サチも俺と同じ疑問を持ったようで代わりに聞いてくれた。

「あー・・・姉貴はああ見えて結構過保護なんです。連絡して来た時も鬱陶しい程あれこれ言われましたし、私が農園に現れたと知ったら飛んできそうで」

「ははは、愛されてるな」

最近見た天機人の姉妹の様子がアリスとレオニーナで変換されて微笑ましくなる。

「まぁそのうち時間を見つけてうかれた姉貴を直接見に行きますわ」

「あぁ、それがいい」

過保護なアリスか。

ちょっと見てみたい気もするな。
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