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孝行の日

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下界で漁村と穀倉地帯の集落が見つかったのはいい情報だ。

ただ、把握が難しい状態にある。

というのもここに行き来するペースが月一であれば常に状況把握できるのだが、どうやらそれ以上の間隔で訪れているようだ。

そうなると視野範囲が消えてしまい、状況が把握できなくなってしまう。

「あ、あー・・・消えた」

漁村はまだ見えてるが穀倉の集落が見えなくなってしまった。

下界観察も慣れて来たので最近じゃ早送りで見る時も増えてきたのだが、見えなくなるとそれはそれで悔しく感じてしまう。

「人口が少ないですからね。また信者が訪れるのを待ちましょう」

こういう何気ない一言が冷静さを取り戻してくれるんだよな。ありがたい。



一応視覚出来ている間にある程度その場所の情報は入っている。

穀倉の集落は少人数で大規模の穀倉地帯を管理している。

その他に草原の街からの出稼ぎや運搬人員が行き来するので住居は人口の倍ほどある。

ここで作られた農作物は草原の街に運ばれて加工、消費される。

ここでの農作業、特に収穫方法にはホント驚いた。

草原の街から数名の魔法使いが来て一気に魔法で収穫してしまうのだ。

麦であればウィンドカッターで一気に刈り取り、刈った麦はつむじ風のようにして一箇所に集められていた。

根菜類であればアースグレイブの応用なのか、土が下から盛り上がり、魔法が切れて土が元の高さに落ちると作物が落ちた土の上に出るふるいのような方法。

大規模ならではの効率的な収穫方法だ。

魔法使いの仕事はここまでで、力仕事が得意な人は運搬、器用な人は仕分けなど担当している。

つまり街から出稼ぎに来る人は大半が冒険者一向なのだ。

そして彼らはちゃんと冒険者らしい仕事もする。

畑や収穫物を狙った獣や野盗から集落を守ってくれる。

そんな感じで冒険者を利用する事でこの集落は少人数でも十分にやっていけているわけだ。



漁村は名の通り漁業によって成り立っている村だ。

西に面している大河から魚を得て、それを草原の街からの商人と売買して生活している。

それとこの村にはもう一つ役割がある。

船で大河の先との交通だ。

明らかに村に似つかわしくない大きな船が停泊しているのを見たことがある。

もはや海と見間違える大きさの大河だから、渡るとなればこのぐらいの船が必要になるのか。

大河を渡る船は月に一便あるかないか。

人より物資の運搬が主な印象を受けた。

うーん、やっぱり敵対生物とかいるから旅人とか少ないのか。信者の行動範囲も限られてるしな。

逆に言えばそういう旅人を信者に出来れば一気に視野拡大ができるか。

いや、しかし一ヶ月で通ったところは見えなくなってしまうな。

だったら吟遊詩人とかの方がいいかな、歌で信者も増やせるんじゃないかな。

だが、どうやって吟遊詩人を信者にする?

うーん、どうしたもんかな。

「ソウ?どうしました?」

「ん?なんだ?」

「いえ、凄い思い悩んでる顔してましたので」

「あ、いや、ちょっと考えが堂々巡りになってただけだよ」

「そうですか。余り思い詰めないでくださいね」

「うん、わかった。ありがとう」

心配されてしまった。

いかんな、久しぶりにサチの哀しそうな表情を見てしまった。心が痛む。

よし、もう少し楽観的に考えよう。

一応最低限の信仰地区は確保できてるわけだし、もっと長い目で見ないとな。



「今日の予定はサチに任せようかな」

「私が決めていいのですか?」

「うん、たまにはそういうのもいいかなと」

さっき心配させてしまったお詫びもあるが、その時感じたのがありがたさだ。

いつも傍にいてくれるし、何気なく補助してくれるし、さっきみたいに心配もしてくれる。

そんなことで今日はサチ孝行しようと思ってる。

「うーん、そうですね・・・」

「今後もこういう日が出来ると思うから、余り考えなくていいぞ」

「そうなのですか?」

顔を上げてぱっと表情が明るくなる。嬉しそうだ。

「うん。俺の気持ちが変わらないうちにぱぱっと決めな」

「わかりました。では今日は直帰でお願いします」

「あいよ」

またデザート作りでも頼まれるかな?



「んー!」

サチがスプーンを咥えたまま頬に手を当てて満面の笑みを浮かべている。

案の定デザートを所望された。

今回作ったのはプリン。

砂糖が手に入ったので試作がてら作ってみたらこの反応である。

以前から牛乳と卵に代わるものはあったのだが、砂糖のようなストレートな甘さの作物が無かったので試作段階止まりだった。

塩も若干手間ではあるが作り方は確立できたし、少しずつだが充実してきている気がする。

「ソウ、もう一個食べてもいいですか?」

「あぁ、いいぞ」

既に自分の前に持ってきてから許可を求める辺り無意味な質問な気もするが。

ま、ここまで喜んでもらえるなら作り甲斐があるというもんだな。

今度レパートリーを増やすべく、前に貰ってきた異世界の情報でも見せてもらおうかなぁ。



腹がこなれたところで布団に移動してサチの衣服コレクションを見せてもらっている。

見るといってもパネルに表示された映像で、サチを前に座らせて後ろから密着状態で覗き込んでいる。

「オアシスの街で一気に増えてほくほくです」

今日のサチはプリンを食べて満足したのか、好きにしていい日だからなのか終始ご機嫌だ。

「結構あるな。いつから集めだしたんだ?」

「比較的最近ですよ。ソウから許可を頂いたので視野範囲内の服装は大体網羅してます」

「おぉ・・・」

地区別、常用率順に並んでて非常に見易い。

「これ、この前着ましたね」

「うん」

サチがセーラー服を選ぶと一覧から拡大されて表示される。

何が凄いってこの一覧は全て着用可能と言うところだ。

簡単に言えばカタログを見てコレがいいと思って念じると実際着られるという便利具合。

「今日はどれを着ましょうか」

最近数日に一回ぐらいの頻度でサチはコレクションから適当に選んで着ている。

この前は草原の街の町娘が着るような服装だったな。

今日はオアシスの街から選びたいようで他の街の一覧を見る気配がない。

別にいいんだけどさ、オアシスの街の服装はどうにも刺激が強くて我慢が出来なくなって困る。

「じゃあこれで」

え、ちょ、えぇ、いや、着たのを見てみたいけど、マズいよそれは。

止めるまもなく立ち上がってサチはあっという間に着替える。

「ちょっときついですね」

そりゃそうだろ、そんなショートスカートのピンクのナース服とか。本職用じゃないもん。

「どうです?似合ってますか?」

「あ、うん、似合ってる似合ってる」

似合ってはいる。でもヒーラーっぽいかどうかと言えばそうは思わない。

なんでだろうね、下界とか見てると割と露出の多い人とか見かけるけど、この服のように体の線がしっかり見える服の方がいやらしく見える。

後色だな、色がいかんな。

「サチ、ちょっと戻って戻って」

「あ、はい」

さっきと同じように座る。

触ってみるといい生地だ。

撫でて感触を楽しみながら前の世界でのこの服を着る職業を教えてあげる。

「へー。補佐する職業ですか。私みたいですね」

広義的に捉えるとそうともいえるかな。

でもこれ自体は大幅なアレンジを加えられて、用途が変わっていることも説明する。

「前から思っていましたがソウが居た世界はなんというかこだわりの塊みたいな世界ですね」

「あー、確かにそうかもしれない」

こだわりか。

良く言えばそうかもしれないが、悪く言えば変態的といえると思う。

「それで、これはそのごっこ遊び向けの服装なのですね?」

「うん。もう少しまともな白のとかあっただろうに、どうしてこれ選んじゃったかな」

「それはソウが好きそうだからです」

ぐっ・・・、ここ最近サチは俺の好みも把握出来るようになってきてるんだよな。

「折角なのでそれっぽいことしましょう。設定は任せます」

どうもこの前セーラー服で学生っぽい事してからこういう事に乗り気なんだよな。

「任せますって、この服だとただのごっこ遊びじゃ済まされないぞ?」

「全くもって問題ありません」

あ、いつものだ。

さては最初からそのつもりだったな?

いいだろう、そういう事なら遠慮はしない。

「じゃあ俺は先生でサチは研修生ね。俺の事は先生と呼ぶように」

「わかりました先生、よろしくお願いします」

「うむ。では研修を始めるぞ」

ま、なんだかんだで俺も楽しいんだけどね。

聴診器とかの小道具が無いのは残念だな。触診でいいか。

しっかしこんなところ他の人には絶対見せられないし知られたくないな。
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