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二度目の製作依頼

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オアシスの街に集中している間に少し下界に変化があった。

最初の森の集落が村へ格上げされた。

中継地の草原の街との貿易が盛んになり人の行き来が増え、人口増加した事が要因のようだ。

その影響もあってか草原の街にも信者が徐々に増え、人口のおよそ一割程が信者になってくれている。

特に増えるきっかけとして考えられるのが、早い段階で信者になってくれた商人が森の村から妻を娶ったことだろう。

村では大々的な婚礼の儀が執り行われたようで、それを見に来た街の人達が影響を受けたという感じ。

ちなみに商人のお嫁さんは村で最初に助けた女の子が祭神をしていた際に、補助役をしていた栗毛の若い女性だった。

人の縁とは面白いもんだな。幸せになってもらいたい。

そういえばオアシスの街の末裔の若者もヒーラーの相方と一緒に森の村まで行ったようだ。

今のところオアシスの街は彼しか信者がいないので、彼が街を一ヶ月程離れたことで街の周囲を見れなくなった時はかなり焦った。

どうやら一定期間信者が確認できないと視野範囲が消失するらしい。

今は二人はまた拠点のオアシスの街に戻って活動を再開しているので視野も回復している。

うーん、街の信者の割合を高くするつもりは無いが、完全に居ないと視覚化できないのも困るな。

「なあサチ、信者の居ないところを視覚化する事ってできないのか?」

「出来ますよ。ただし視覚化している間は常に神力を消費します」

「げ、マジか」

「はい。また、視覚化するには信者の視野範囲に接している必要があります」

つまり闇雲に穴を空けるような視覚化は出来ないわけか。

しょうがない、相当な緊急時でない限りはやらないようにしよう。



ひとまず草原の街の信者が増えたおかげでかなり視野範囲が拡大された。

そして見つかったものが幾つか。

草原の街から程なく離れたところに広大な穀倉地帯とそれを管理する集落。

街の管轄下にある集落で、定期的に主に食料を街に供給しているようだ。

他に漁村。

漁村と言っても海ではなく河川に面した村だ。

この川が非常に大きい。

ダンジョンのある山から流れてきている川が大河になり、視野範囲の外まで川幅を広げている。

よし、草原の街を中心に位置関係がわかったのでまとめてみよう。

まず東の端に広がる森林地帯に森の村。

そこから西に行った広い草原地帯に草原の街。

草原の街から北にダンジョンのある山。

街から南東に進むと大穀倉地帯と集落。

同じく南に結構な距離を進むと砂漠になり、その先にオアシスの街。

草原の街から西に進むと大河に面した漁村があり、漁村の西側にある大河はに北の山から流れてきた川で、その先はまだわからない。

後はところどころにポツポツと家屋や野営地などが点在している。

画面を縮小して全体を見ると結構見える範囲が広がったなと感じる。

俺が神になって下界もそこそこな時間が経過しているが、成果が目の前の結果だとすると嬉しくなる。

頑張ろう。



「サチ、そろそろアストレウスのところに行きたいんだが」

「わかりました。ミリクリエさんに連絡入れてみます」

片付け作業を中断して連絡を入れてくれてるみたいだ。

天界の住人はどうやってるか分からないが連絡を取ることができる。

俺は出来ない。いや、出来るかもしれないがどうせ神力を使うとか言われて使わないことになるんだろうな。

今度何かの時にでも念のため聞いてみるか。

「連絡取れました。大丈夫だそうです」

「そうか。じゃあちょっと書く物くれる?依頼品の一覧作りたい」

「どうぞ」

前にルミナに稲と麦を描いた時のようなパネルをくれる。

えーっと、料理してて足りないと思った調理道具に加えルミナ達の分も必要だ。あとそうだ、密閉容器もいるな。

あれやこれやと書いていったら結構な量になってしまった。

大丈夫かな。ダメならその時考えよう。




「ごめんください」

アストレウスの家の前で声を出すと家が揺れた。

ドタドタと音がした後に勢い良く扉が開いた。あぶねぇ、危うく当たりそうになったわ。

「おぉ!神様!よぐ来でぐださっだ!」

「お、おぉ。久しぶり」

前と同じく手を取られブンブンと握手される。

「サチナリアちゃんもいらっしゃい」

「こんにちは、ミリクリエさん」

アストレウスの後ろからミリクリエも出てきてサチと挨拶してる。

この二人妙に仲が良くなってるんだよな。

しかも見た目はミリクリエの方が年下に見えるもんだからそのギャップが凄い。

「調理道具ありがとな。とても良い出来だったよ」

「そいづばよがっだだ!じで今日ばどんな御用で?」

「あんた、ちょっと。立ち話もなんですから中へどうぞ」

ミリクリエが話を急ぐ旦那を止めて中に招いてくれる。

「おう、ぞうだな!どうぞどうぞ」

「おじゃまします」



「粗茶ですが」

以前と全く同じ状況に既視感を覚えながらも話を切り出す。

「今日は追加依頼に来たんだが、その前にこの前の礼をしないとな。サチ、仙桃出して」

こっちでの価値観は分からないから数はサチ任せにした。

五個か。妥当ってとこかな?

「これは?」

ミリクリエが興味深そうに仙桃を見てる。

「湧酒場に生えてる木に生ってたものを許可を得てもらってきた。美味いからよかったらもらってくれ」

「おぉ!あの実が!いやー生っでるんば知っでだけどんも、食えるとばな!」

湧酒場は行ったことあるのか。なら今回の依頼も請けてくれるかな。

「早速切り分けてきますね」

席を立つミリクリエにサチが付いて行き、男二人になる。

「それで、今回の依頼というのは?」

いつの間にかアストレウスが職人モードになってた。

「うん、先日作ってもらった道具の同じものを幾つか。それとは別に新しい調理道具も作って欲しいんだ」

「ふんふん、コンロもか?」

「あぁ、出来れば欲しいが・・・精霊石ってそう簡単に手に入るのか?」

「うーむ、ある事はあるが加工が難しくてな。他も作るとなると少し時間がかかるかもしれん」

ふむ、先日ウィンドカッターを使っているところを見ると、火も出せたりしそうだから外にかまどでも作ればいいか。

「じゃあコンロは後回しで。あと密閉容器を作って欲しいんだ」

「密閉容器?何に使うんだ?」

「湧酒場の酒を入れる」

「何!?」

家にアストレウスの声が響く。

職人モードになっても声の大きさは変わらないのな。

声量が凄くて軽い衝撃波を受けた気分だ。

「あんたどうしたよ?そんな大声だして」

ミリクリエが切り分けて仙桃を皿に盛って持ってきた。

「いや、神様がよ、酒を持ぢ出ず容器作っでぐれっで」

あ、職人モード切れた。オンオフのタイミングがわからん。

「あら。うふふ、神様もなかなか大胆な事考えなさるね」

「そうかな。料理に使いたくて」

「飲むんでねぇんが!?」

二回目の衝撃波が来た。

「うん。俺酒余り強くないからな」

「はぁーなんでもっだいねぇ!あんなうめーもん飲めねぇなんでな!」

反応から薄々感じてたがアストレウスもルミナ側か。

「ま、代わりにこっちを美味しく頂くからいいさ」

切り分けてくれた仙桃を指差す。

「おっ!ごれがあの実が。食っでもよがか?」

「どうぞ」

勧めると夫婦で皿に手を伸ばす。

「サチ」

「なんですか?」

「耳を塞ぐ準備しときな」

「え?あ、はい、わかりました」

恐らくこの後の展開に必要なことだろうからな。



「うんめええええぇぇぇぇ!!」

案の定声の衝撃波が走った。

俺もサチも耳を塞いで耐えたが、塞いだ上からでもうるさかった。

ちなみにミリクリエは全く気にせず二切目を食べてた。さすが奥さんだな。

「あんだごれ!どんでもなぐうめぇぞ!」

「いやーびっくりしたね、止まらなくなっちゃうよ」

サチ、お前は後でな。食べたそうに見るんじゃありません。

あっという間に皿は空になり、夫婦揃って口と手がビシャビシャになってる。

うーん、楊枝や串も作ってもらう必要があるなこれは。

「いやー馳走になっだ。おっと、話の途中だったな」

「ははは、喜んで貰えたようでなによりだよ」

「それで、あそこの酒を入れる容器だったか」

「うん。すぐ揮発するのは知っている。凍らせても防げそうだが試してないし、怒られそうだからな」

「そうだな、警備隊が目を光らせてやがる」

「そこで密閉容器だ。こんな感じに瓶を用意して、栓をする」

事前にサチが察知して手書きパネルを出してくれる。ホント気が利いて助かる。

「瓶は分かるが、ただ栓をするだけじゃ抜けてくだろ」

「そうだな。なので栓を工夫する。樹脂とかの柔らかい素材で栓を作るんだ」

前の世界で言うところのゴムパッキンを図に描いて細かく説明する。

「ほほう!これは面白い!少し試行錯誤に時間を要するかもしれないが、やらせてくれ」

「あぁ、頼む。他にも作って欲しいものがコレだけあるんだが」

先ほど書いた一覧を見ながら一つ一つ説明していく。

「ふんふん。面白いがこれだけの量を作るとなると結構時間かかるぞ」

「だろうな。いいよ、急いでないから」

「そこでこっちから提案だ。俺の知り合いの職人衆にも声をかけて分担させたい」

「いいのか?」

「おう、どうせあいつら暇してるだろうからな!」

「じゃあ是非とも頼む」

「任せてくれ!」

ふう、これで当面の道具不足は解消できるかな。

いや、天界は細かい作業向けの道具が極端に少ないから、また不足を感じることがあるだろう。

その都度メモしておいて程よいタイミングで頼んで徐々に増やしていこう。

「そうだ。今後も付き合いありそうだから神様じゃなくてソウと呼んでくれないか?」

「いいげんど呼び捨でば失礼になるが。ソウ様にざぜでぐれ」

「そっか、じゃあそれで頼む。二人の事も愛称で呼びたいんだが何かある?」

「アストで呼んでぐれ。ごいづばクリエでよが」

ミリクリエもそれでいいらしく頷いてる。

「アストとクリエね。わかった、二人とも改めてよろしくな」

「ごぢらごぞ!」



「まだ来でなー!」

アストのでかい声に見送られながら家を後にする。

「そういえばなんでミリクリエはクリエだったんだろ?」

ふとさっきのやり取りで気になった事を口にする。

「あぁ、若い頃ミリクリエさんはミリィと呼ばれていたそうですよ」

「へー。というか何で知ってるんだ?」

「先ほどソウが長々と説明している間に教えていただきました」

そんな長く話してたっけ。

・・・話してたかも。

アストが興味深そうに聞いてくれるから話に勢いが付いてしまってつい長々と話してしまってたかもしれない。

その間にサチはクリエと談笑してたわけか。

「そうか。仲良さそうでいいな」

「はい、良くしていただいています。ちなみにミリクリエさんはアストレウスさんの事をあっちゃんって呼んでいたそうですよ」

「あっちゃん!?」

ミリィ、あっちゃんと呼び合うあの二人か・・・。

うん、ダメだ、想像しちゃいけない。し、失礼だからな、うん。

「えぇもう私も最初に聞いたときは笑うのを我慢するので精一杯でした」

思い出したのか小刻みに震えて笑っているのが抱えられた腕から伝わってくる。

ダメだ、釣られて俺も口が笑ってしまう。

「そういうわけで若かりし頃の呼び方を思い出すので関連の無い呼び方を指定したのだと思います」

「なるほど、この事は黙っておいた方がいいな」

「そう思います」

依頼を請けてもらえなくなったら困るしな。
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