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いい夫婦の日
しおりを挟む「なあなあ龍さん、今日は何の日か知っとる?」
窓から差し込む朝日に照らされながら、スマホ片手に歯を磨く龍の後ろから声をかける。
彼はくるりと振り向き僕の頭へポンと手を置いて、待って、と示してからうがいコップへ入った水を口へ含んだ。
まるで、分かっているみたいだと思う。口から水を吐き出した彼は、自信満々に口を開いた。
「勤労感謝の日の前日やろ?」
思わず口へ手を当てぷっと吹き出し、彼の背中を優しく叩く。龍はなぜ笑われたのか疑問だとでも言うようにぽかんと瞬いて小首を傾げた。
そういう顔に似合わず可愛らしい仕草も、たまらない。
「今日はええ夫婦の日やで」
僕はそう言って龍の耳元へ口を寄せると、そっと小さく囁いた。
「明日、おやすみやね」
あわよくば、とそう思って、言った側の僕の胸がドキッと高鳴る。
仕掛けた割に恥ずかしくて、直ぐに距離をとり乱れてもいない前髪へ触れると、今更フワッと彼の匂いが香った。
「ええ夫婦、かぁ」と彼は言う。「楓にはいつもお世話になってるし、ゆっくりしてもらわなくちゃなあ」
龍はそう言って、再び僕の頭に手を置いた。
正直、僕の言った意図を彼は1ミリも伝わっていなかった。思わず、本当に彼はちゃんと男なのかと疑問に思う。据え膳食わぬはなんとやら、だ。
でも。そう、不満に思ったのにも関わらず。
胸が、ザワっとくすぐったかった。
少し鈍感だけれど、僕を真っ直ぐに大切にしてくれる。そんな彼に、もう何百回、何千回目の恋をした。
「一緒にゆっくりしような、龍」
柔らかい、彼の頬へキスをする。彼は、僕の背へ手を回してその柔らかい唇を僕の唇へ押し付けた。
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