一原白×暁翔夢

しろつば

　白い髪が風に揺れる。夕日に照らされたそれは俺の目には銀色に輝いて見えて、まるで天使みたいだと思った。いいや、その日そこにいた彼は、いいや、彼女は。僕にとっては紛れもなく天使だった。
　天使には翼が生えていなかった。それなのにその天使はそこから飛び立とうとしている。よくわからないけれど、彼女の瞳からこぼれた一粒の雫がその考えを確信に変えてくれる。その憂を帯びた表情は天使にはぴったりだったけれど、僕は違うと思う。
「まって」
　いつもなら仲のいい人が相手でもろくに動いてくれない口が、今日はとっさに開いた。もちろん、なんて声をかけていいかもわからない。声をかけることが正しかったのかさえも僕なんかには到底理解できないことだと思う。それでも、僕はその手を掴みたかった。いつの日か、僕が彼女にしてもらったように。
　手は冷たかった。だから、僕はその手を両手で包んで笑った。彼女の分まで、明るい笑顔を浮かべて言った。
「どうしたの、白。飴いる？」
　その時見せた白の呆けた顔は今でも忘れない。一瞬間違えたかなと思った。けれど、　つい漏らしたであろうあどけない笑顔は僕の行動に花丸をくれたようで、とっても輝いてみえた。大丈夫。白は天使じゃない。天使じゃなくても、僕がいる。

「うん、いるっ！」