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プロローグ
しおりを挟むうひょひょひょ。よっしゃぁぁぁあ!!
やったあああああ!!
うぉぉ!!さいきょぉぉ!!
え? 何をそんなに喜んでるって??
ふふ。聞いて驚くなよ諸君。それには海よりも深く、山よりもたかーい理由があるのだよ。
結論から言うぜ。異世界に召喚されました。
それがなんでそんなに嬉しいんだって?
ばか。言わせんじゃねえよ。現実の世界なんて退屈で、物語なんて何も無くて、自分が主人公なのか、そうじゃないのかも分からねえ様な有様だろう?
自分の人生は自分が主人公?
はっ。
そんなのは自分の人生が充実していて、他人の事なんて全く羨む事がなかった奴の言い分だよ。
俺は俺の人生でも、主人公にはなれやしなかった。
だが、この異世界召喚は違う。どんな平凡な中高生でも、どんな人格破綻者でも、どんなリアリストだろうとも、どんな悪人であろうとも。
等しく主人公へと変えてくれる。
それが異世界召喚だ!
落ち着けって? へへ、兄弟俺は冷静だぜ。誰よりもクレバーよ。
最近は何かと異世界に召喚された主人公が悲劇の憂いに遭遇するのも流行ってるけど、なんだかんだでみんな最後にはハッピーになれるだろ?
だから、俺は召喚されたらもう勝ち確みたいな物だと思ってる。
──目の前のでっかいアリみたいな怪物が、獲物を目前にカチカチと目の前で顎を鳴らしていても、だ。
「ギギッ」
まあ、ちょっとここに至った経緯を兄弟に話しておきたい。
俺はさっき挙げた主人公のタイプの中じゃ、一番始めに挙げた平凡系の主人公に当てはまる。いや、もしかしたら平凡以下だったかもしれない。
餓鬼の頃は年相応にやんちゃで、中学に上がったら不良がカッコいいと思ってて。そんでもって高校に上がったら少し落ち着きを取り戻して。
そんでもって自分が人間関係を構築するってのが馬鹿みたいに下手くそだって気づいた。
そんな人間だ。
なんに対しても真面目に取り組むのがダサいと思ってて、結局何も熱中してこなかったせいで特技も無ければ趣味といった趣味もない。
顔? 言わせんなよブラザー。
まあそんな俺だけど一つだけ誇れる事がある。
俺は家族仲はよかった。父親とも仲はよかったし、母親とも良好な関係。妹も歳の割には懐いてくれてたよ。
まあ友達って言える奴は少なかったけどな。
「グギ……ギギッ」
おっとため息ついたらアリさんが興奮しちまったみたいだ。ええと? どれどれ。ひーふーみー。
……。
五匹だな。いやぁ、それにしても見れば見るほど気持ち悪ぃな。吐きそうだ。
他の獲物を食ったすぐなのか知らないけど、なんかアリさんの口から腸みたいなのがぶら下がってるし。
うわぁエグ。
まあ俺は異世界召喚された訳だし、アリさんに喰われた可哀想な方には申し訳ないけど勝ち確定だからさ!
まあ合掌くらいはしといてやるかね。あ、今はアリさんが興奮するからまた後でね? まあ喰われたのが人か、獣かなんてわかんねえんだけどさ。
あーそうだそうだ。脱線したな。そういえば経緯の話だったな。忘れてたわ。
そう。あれは雲一つない青空の下、コンビニから自転車で家への帰路についてた時の話だ。
昔よく遊んでた公園が目に入ってさ。割と広い公園で池とかあって、まあ偶には公園で散歩とかするのも乙かなって思い立ってさ。
公園の入り方に差し掛かった訳よ。あ、そういや公園の入り口にある柵みたいな奴の名前知ってる??あれバリカーって言うんだぜ?
……ああすまん。話が逸れたな。
まあそんなこんなで公園に入って行った訳だ。そして公園の風物詩でもある池へと足を向けた。
まあ池って言ってもろくに手入れもされてねえもんだからヘドロ塗れでカエルの卵だったり、ザリガニだったりがそこら中にいるような池でさ。沼と言っても過言じゃないくらいなんだけど。
それでどうしたって? ふふ。まあまあ結論を急ぐなよ兄弟。ってあ、結論はもう言ってたか。この場合は話を急ぐな、が正解だな。
それで、だ。池まで近づいて、俺は気づいた。周囲が真っ暗だったんだよ。
さっきも言ったよな?
まるで青と白の絵具を3:1で混ぜた液体をぶち撒けた様な青々とした空模様だったって。
けどさぁ。さっきまで明るかったのに、まるで夜みたいに暗かった訳よ。
そりゃ当然焦ったぜ。だってさ。背の高い木があって日陰が出来るのは当然だけど、そんなレベルじゃなかったんだ。
まじで夜。夕方とかでもない。真っ暗。外灯もついてないし、まじで1メートル先がちょっと見えるくらい。
まあ俺びびっちまってさ。びびったなりに、とりあえず辺りを見渡した訳よ。そしたら池が目に入ってさ。
いつもと違う訳だ。その池が。
いや、別に斧を落として、中からビショビショ美少女がファーンって浮き上がって『貴方が落としたのは銀の斧ですか? それとも金の斧ですか?』とか聞いて来た訳じゃないぜ?
お前それ言いたかっただけだろって? ごめん。
でもまあもっと奇怪な事が起こった。
池からなんか太い棒みたいな物が何本も伸びてた訳だ。
そんでもってまあ暗闇にも目が慣れて来てたし、それを注意深く観察してみた。
そしたら──。
人間の手足、だったんだよなそれ。
金○一じゃないよ? いや、俺もそう思ったけどさ。いや、悪い嘘ついた。そんなの思える筈がねえ。
めちゃくちゃ怖かった。池から手足が生えてるとか。もしかしたらあの水面に漂ってたカエルの卵から、人間の手足が生まれたのかと思ってさ。
新種発見!? とかちょっと心躍ったよ。
いや、悪い……これも嘘。
恐怖で頭が真っ白になるってさ。初めて経験したんだよ。そんでもって、俺の中の本能が叫ぶ訳だ。
──ここにいてはいけない。
うん。俺は一目散に駆け出したよ。多分泣き叫びながらな。てか、公園を抜け出すって事以外は考えられなかった。
ぷぷーへたれチキンすぎて草なんですけどwとか言いたかったら言ってくれて構わねえよ。
あれは……見た奴にしかわからねえ。あっちゃいけないもんだった。ホラーが得意とか苦手とかじゃねえ。人間の根本的な部分に訴えかける様なおぞましい光景だった。
それこそ目の前のアリさんなんかとは全くレベルが違う。いや、十分怖いけどさ。けど、結局あれだろ。 目の前のアリさんは異世界召喚された俺の事は殺せない訳よ。
なんせ序盤も序盤の、言ってしまえばこれってチュートリアルだからさ。
危機感とか全然無いわけよ。だってアリだぜ? ちょっとデカくなっててもそんなの変わらねえって。
中型犬サイズのアリさんが動いてるのを見るのはまあ気色が悪いってのはあるけどな。
まあ何が言いたいかっていうと、あれほどの恐怖体験は初めてだったってこと。
それでだ。公園の中にいた俺は無我夢中で走った。そんで公園の入り口が見えて、ようやく逃げ出せるって思った瞬間だ。
いきなり暗かった周りが明るくなってさ。眩しさで一瞬閉じた目を開けたら、この森の中にいた訳だな。
……それでおしまいって?
うん。これ以上言える事はない。
いや、わかるよ。兄弟が意味わからないって思うのも。
でも俺だって意味わからねえんだよ。
まあそれは置いといて、だ。とりあえず俺は森の中に飛ばされて、自分がどんな状況にいるのか考えた訳だ。それで思い立った。これが結論だ。
『あれ? これってもしかして流行りの異世界召喚じゃね?』
それが分かった時はまじでガッツポーズしたぜ。
だって異世界よ? ファンタジーよ? めちゃくちゃ浪漫じゃね?
こっから世界を救うための冒険が始まったり、その過程で色んな美少女たちとキャッキャうふふな展開があったり、ヒーローみたいに困ってる人を助けたりしてさ。
俺はようやく俺の人生の主人公になれるんだなって思ったら、そりゃ喜ぶさ。
まあ定番の神様とか女神様とかが出てきて、スキルくれたり、世界の説明とかしてくれないのは不親切だなあとか思うけど。
それでも異世界召喚された俺って主人公って事だし? まあ紆余曲折あってもやっていけんだろ。
ほのぼの系のストーリーなのかな? それとも敵をバッタバッタなぎ倒していく英雄譚? ラブコメもいいなぁ。
ああ。
痛いなぁ。
──痛い痛い痛い痛い。
太い顎で噛まれる度に脳天にビリビリと電流が走る。俺の内臓を食うためにアリさん達が硬い肋骨をボリボリと噛み折ってるのがわかる。
──あががががガガが。
思考を巡らそうとしても、それすら覚束ない。
──主人公になれたんじゃないの? てか序盤のお助けキャラとかは? スキルは? チートは? 冒険は?
取り留めもない疑問が頭の中をぐるぐると回る。そこでふと俺は昔の事を思い出した。
(ああ……そういや、昔アリの巣を壊して遊んでた事があったな)
漸く気づいた。
──そうだ。俺は昔っからただのモブキャラだ。
寒い、寒くて仕方がない。
俺は死ぬのか。いや、それとももう死んでるのか?
嫌だ。嫌だ。嫌だ。死にたくない。
(父さん、母さん。ゆうか)
最期に頭に浮かんだのは家族の顔だった。
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