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第1章 この出会いに感謝する。

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「お嬢さん」

「__はい? 私ですか?」

「えぇ。道を尋ねても?」

「あ、私の分かる所であれば。どちらに?」

「駅の場所を知りたいんです」

「駅ですね。そこの道を真っ直ぐ行くと・・・」




 ガラスを一枚隔てた向こうで、笑顔で答える想い人がいる。怪しい車の運転手に声をかけられても、嫌な顔一つせずに愛想よく笑う顔は写真よりもずっと魅力的だった。外からは窓の中が見えない様になっている。だから、貴臣が見ている事に気付きなどしない。

 一体、何度目だろうか。家の前まで行ったこともある。部屋のライトが付くのを見守ってから帰る事もあれば、ライトが消えるのを確認した事もある。これを世間で言うストーカー行為だとは重々承知である。

 ああ、どうかしてる。私は暇では無い。こんなところに通っている暇など無いのだ。




 そう否定しながら、今宵もマンションの前でそこにいるであろう存在を想う。


「・・・?」

 ベランダに出てきたのは他の誰でもなく、水谷沙也加本人だった。そう遠くは無いのに表情が見えない。サングラスのように少し暗くなってしまう窓を開けると、初めて自分と沙也加が出会えた気がした。声は聞こえない。その息遣いも聞こえないけれど、手の動きで泣いているのが見て取れる。

 誰に泣かされた?何があった?___私は何もしてやれないのか。


 窓を閉めて発車するように指示した。簡単な事だ。これまでの様に、欲しいものは手に入れたらいいではないか。準備せねばな。





 全ての始まりから三か月が経っている。家の改築は済んだ。女が好きそうな家具やインテリアを選ばせたし、女は料理が好きだから調味料も揃えた。使用済みのベッドも新調した。鍵がいるな。それは昼間のうちに付けさせるとして。

 心は酷く落ち着き冷静だったが、震える手を見ると緊張していると実感する。

「ふっ」

 何も可笑しくないのに笑いが込み上げる。なんと猟奇的な事をしようとしているのだろうか。上手く言いくるめる自信はある。司や匠の対策も考えてある。
 ドクドクと高鳴る胸に手を当てる。この思いが”好き”という感情なのかはわからない。それを確かめるためにも。





 貴臣は車のドアハンドルに手を掛ける。

がちゃっ
「わっ、びっくりした」

「___帰りか?」

「え? あ、はい。どな「迎えに来たぞ」



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