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最終章 極上の旦那様を、ご賞味あれ。

Last-3

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 部屋まで運ばれてきた朝食を口いっぱいに頬張る。ああ、幸せ。でも・・・

「ほら、あーん」

「あ・・・んぐ」

 にこにこと楽しそうに匠くんは笑いながら、私を餌付けしている。向かい合っている匠くんの右手にはフォーク、左手にはベーコンやウインナーとスクランブルエッグなどが乗せられたお皿。膝に乗り上げている私は、匠くんの両肩に手を付いてバランスを取っている。不安定なソファもとい匠くんの膝の上は快適とは程遠い。それでも降りたくないのは、この甘い雰囲気を胸いっぱい味わって居たくて。

「私ばっかり食べてるよ」

「僕は亜子ちゃんの可愛い姿でお腹いっぱいだよ」

「___変態」

「それは亜子ちゃんが考えているより、ずっと・・・ね?」

「んなっ」

 向かい合った姿勢のまま、細められた二重の下で長い睫毛がぱたりと揺れる。え、えろいです。思わずごくりと唾液を飲み込むと、薔薇のようにキメ細やかで綺麗な唇の上を濡れた舌が通り過ぎる。たぶんキスのお誘い。でも主導権を握られっぱなしでいる私が、自ら負けに行くわけにはいかない。
 お皿に乗っていたウインナーを掴んで匠くんの口に放りこむ。

「やっぱりお腹空いていたのね」

「・・・」

 わかった上でそうしたけれど、匠くんの目が「そうじゃない」と訴えている。それでも両手が塞がっている匠くんよりは、私のほうが主導権を握れているはず。半分以上はみ出したままのウインナーが目の前で上下に揺れて、よく考えればこれこそもの凄くえろいことなんじゃないかと今更気付く。

「ん」

「な、なんですか」

「ん」

「わかりません」

「ん」

「・・・」

 見上げてくる匠くんの瞳にはSっ気がチラつき、命令を聞かなければいけないような気がしてくる。まるで羊と狼みたい。優しくしてやっているだけで、俺はいつでもお前を食べることが出来るんだぞって。
 おずおずと口を開こうか葛藤しているところ。匠くんの望みは私が想像しているのものなのかわからない。もし違ったら、私はただの欲情した女。
 口元ばかり見ていたから気付かなかった。ぐっと近づくように腰を引き寄せられて、ウインナーの先が私の唇に当たった。いつの間にか匠くんの両手から朝食が下ろされていて、自由になったその手が私に追い打ちをかけてくる。唇についたジューシーな脂が口内に入り、程よい塩気と旨みで食欲を誘ってくる。食べてと言ってくるのは、ウインナーだけではなくその先の唇も。
 眉を寄せてから、口を開けて先端を咥える。その瞬間ぐっと押されたウインナーの半分が私の口の中に。そして私の背中はソファの座面に下ろされていた。・・・いや、押さえつけられていたという表現のほうが正しいかもしれない。

 私は匠くんに組み敷かれ見下ろされたまま、阿保みたいにウインナーを咥えて目を見開いている。

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