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第六章 グッバイ、旦那様。
6-1
しおりを挟む私は監禁されているわけでも、飼われているわけでもない。自由な時間を持て余しながら日々を過ごす。なんと贅沢な暮らしだろう。
(ピリリリリ)
珍しく鳴った携帯画面を見ると、それは田村さんからの着信だった。
「はい」
『今、大丈夫?』
「大丈夫です。どうしましたか?」
『いや・・・、あれから音沙汰ないし、大丈夫かなって』
言い辛そうに途切れる言葉に、田村さんの気遣いを感じる。もし別れていたらどうしようって思っているのだろう。小さくはにかんで「大丈夫です」と返した。
『そっか。聞けたの? 御曹司の気持ち』
「あー・・・すみません。実は、聞けませんでした」
『え? それなのにずるずると一緒にいるのか?』
ぐうの音も出ません。前と違うのは、答えを先延ばしにしているのではなく、気持ちをわかった上で一緒にいるということなのです。
『白石は二十七歳だろ? で、御曹司は十八歳。もし五年後に捨てられたら、白石はどうするんだ?』
田村さんは私を傷つけるために言っているんじゃない。目を覚ませよって言ってくれている。胸が熱くなる。・・・ごめんなさい、田村さん。
「どうしましょうかね。それにどうして匠くんの年齢を知っているんですか?」
『___調べた』
「ふっ・・・ふふふ。そんなことしてくれるくらい、心配してくれてたんですね」
『馬鹿な部下を持つと苦労するんだ』
「ええ? でも、もう部下じゃありませんよ」
『・・・』
「田村さん?」
『ああ、もう部下じゃないんだな』
一緒にいるわけではなくても、空気の変化はなんとなくわかる。
「私、今から行くところがあるんです」
『あ、ああ、そっか。悪い。タイミング悪かったな』
「いえ。ありがとうごさいます。本当に」
『そう言われると・・・ふっ、・・・参ったな』
「じゃあ」
『___じゃあ』
急いで通話終了ボタンを押した。ドクドクと心臓が騒がしい。
きっと、思い違い。私の勘は、最近調子にのっているだけ。それでも、田村さんがナニを言おうとしていたのか聞いてはいけない気がして。
ぽけっと外を見る。今日は曇ったり晴れたり、コロコロと気分屋みたいだ。なんだか家にいたくなくて自室へと向かう。クローゼットを開ければラフな私服がずらりと並んでいる。その端に掛けられた数枚のワンピースは匠くんがプレゼントしてくれたものだ。似合うだろうからって笑った匠くんの笑顔に嘘はなくて、私の皮肉な心が「貴女がみすぼらしいからだ」って言ってくる。だから掴んだのは、黒のスキニーにオーバーサイズの白Tシャツ。これだけじゃ寒いからミリタリージャケットも羽織ろう。これが、私なんだもの。
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