20 / 59
第三章 大谷匠、という男。
3-4
しおりを挟むはっはと少し息を荒くした田村さんが立っていた。
「田村さん・・・、先程はありがとうございました。嬉しかったです」
「白石。大丈夫か?」
「え?」
「辛くないか?」
「えっと、一体どうしたんですか?」
田村さんの真剣な眼差しに戸惑う。こちらを見つめてから、その視線が後ろに立つ匠くんへと動く。
「貴方が大谷グループの御曹司だと存じ上げております。その上で、男として問わせていただきたい。___気まぐれじゃないですよね?」
「・・・」
「白石のこと泣かせたりしたら、貴方がどれだけ偉かろうが俺が殴りに行きますから。そして、返してもらいます」
「白石さんは田村さんのモノではないでしょう? 返してもらうという表現は語弊があるのでは?」
状況が飲み込めないまま二人の会話が進んで行ってしまう。そんなに言ってもらえるほど、私の売り上げ良くなかったです。おじいちゃんに携帯の操作案内二時間して店長に怒られているレベルで、取り合うほどの人材じゃないんですけど。
もちろんそんなツッコミ入れられるような雰囲気じゃなくて、アタフタと二人の顔を交互に見ているしか出来なかった。田村さんの真剣な表情も、匠くんのこんな好戦的な姿も見たことない。田村さんはいつも笑わせてくれていたし、匠くんなんて甘えたの子犬さんなのに・・・。
「白石」
「う、あ、はい」
「いつでも連絡して。俺はお前の味方だから」
「あ、りがとうございます」
「行こうか、亜子ちゃん」
隣に立ってにこやかに見下ろしてくる匠くんの腕が腰に回ってくる。そんなこと田村さんの前でされるのは恥ずかしくて、腕を外してもらえるように抵抗したが更に引き寄せられてしまうだけだった。腕から逃げられないのであれば、この場から逃げるしかない。匠くんの腕に従って田村さんに背中を向ける。
「白石」
「は、ぅい?」
再度呼ばれて振り向こうとしたけれど、匠くんの腕がそれを許してくれない。
「ちょっと、匠くんんっ」
抗議のために見上げた匠くんの表情は冷たくて、無理矢理引き寄せられて唇を奪われる。腕を突っ張って胸板を押してみても、更に頭ごとホールドされてしまった。息苦しい程の口付けに鼻からの呼吸もやっとで、合わさった唇の隙間から必死で息を吸う。主導権は匠くんで、我が物顔で口内を弄ばれていた。
「っんは、はっ(ぱちん)
ようやく解放されて酸素不足の鈍い思考のまま、匠くんの頬を打つ。
「___ごめん」
「はぁ、はぁ・・・匠くんらしくないよ」
「そうだね。僕が悪かった」
徐々に息が整い、そして思い出した。先程まで田村さんが立っていたほうを振り返ると、そこに田村さんの姿は無かった。
10
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
【完結】孕まないから離縁?喜んで!
ユユ
恋愛
嫁いだ先はとてもケチな伯爵家だった。
領地が隣で子爵の父が断れなかった。
結婚3年。義母に呼び出された。
3年も経つのに孕まない私は女ではないらしい。
石女を養いたくないそうだ。
夫は何も言わない。
その日のうちに書類に署名をして王都に向かった。
私は自由の身になったのだ。
* 作り話です
* キチ姑います
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる