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第二章 秘密のベール、脱がせます。

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「好きな食べ物はなんですか?」

「亜子ちゃん」

 広すぎるソファにくっついて座るなんて、勿体無いと思わないのだろうか。改めてリビングでくつろいでいるところだった。隣を見れば目が合ってしまうのはわかっているから、敢えて映っていないテレビに視線を注ぐ。しかし黒いテレビ画面は鏡のように、私たちのちぐはぐな状況を映し出している。ピンと背筋を伸ばして落ち着きなく視線を動かしているのが私、それを覗き込みながら楽しそうにソファの上で胡坐をかいているのが匠くん。

「もっとお互いを知ろうって言ったのは匠くんなのに」

「うん。僕をもっと知って」

「じゃあ、ちゃんと答えてよ」

「答えてる」

 まるで子どものような会話にもどかしさを感じながらも、実は楽しかったりするから困る。あからさまに溜息をついて見せれば、「ごめんごめん」と謝る感じはまさに夢物語のカップルそのものだ。私はそんな甘い恋人関係なんて経験したことはない。

「そうだなあ・・・、笑わない?」

「笑わないよ」

「オムライスが好き」

「____ふふふ「あ、やっぱり笑うじゃん!」

 回答に笑ったのではなく、恥ずかしそうにそっぽを向いて答える匠くんが可愛くて笑ったのだ。ちょっとだけ口を尖らせてこちらを見る匠くんは、やっぱり年相応の男の子なんだと改めて思う。この胸の高鳴りは匠くんがイケメンだからであって、恋心ではないのだと。ひとりっこだし、弟という存在に憧れた頃もある。きっと姉弟というものは、こうやってじゃれ合って仲の良いものなんだ。そう考えが腑に落ちた時、匠くんとのキスに違和感を感じてならなくなった。なんだが急に居心地が悪くなって、ソファから立ち上がる。

「もう夕方だし、ご飯にしようか」

「そうだね」

「じゃあ、匠くんの好きなオムライス作ろうか?」

「あ、いいよ。亜子ちゃんはゆっくりしていて」

 そう言って匠くんはスマホをちょちょいと弄ってから、また私のほうを向き直った。

「___え?」

「ん?」

「ん?」

「お?」

「いやいや、なっ、どうしたらいいの?」

 満足そうに笑う匠くんを見ても、何がどうなったのか全くわからない。

「亜子ちゃんはお姫様だから、なーんにもしなくていいんだよ」

「いや、私はお姫様なんてキャラじゃないよ。___そんな可愛い顔してもだめ」

 むっと下唇を突き出す匠くんも可愛いなあ。・・・って、いやいや絆されちゃだめだ。

「僕は亜子ちゃんに大変なことは何もさせたくないよ」

「そんなこと言ったって、家事はしなくちゃいけないでしょ? これまで匠くん一人分だけで済んでいたものが、私の分まで増えたら全然仕事量変わるよ。それを全部匠くんがやるなんて「お手伝いさんがやるよ」

「お、おぉてつだいさん?」

「家政婦さん?」

「何を?」

「何から何まで全部」

「な・・・、匠くん。貴方はもしかすると、とんでもないボンボンなんですか?」

 私の言葉に少し考えてから、小さく二度頷いた。

「生まれた時からこうだから難しいんだけれど、うちは普通じゃないのはわかっているよ。そう教えてくれた人がいるから」

「えと・・・」

「黙っておくつもりはなかったんだけど、ちょっとびっくりするかもしれないから後にしておきたくて」

「籍を入れた後だったら逃げられないかなみたいなニュアンスに聞こえるんだけど」

「うーん、否定はしないけど。まあ、隠し通せるわけではないから言うよ」

 だいぶ勿体付ける言い方をするから、私のハードルはかなり上げられている。今ならある程度の企業名が出ても、想像の範囲内に収められる。



「大谷グループって知ってる・・・かな」


 いや待て、大谷グループって日本でも一・二を争うとんでも大企業じゃないか。ああ、くらくらしてきた。

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