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第二章 秘密のベール、脱がせます。

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 それはこちらのセリフで、私が匠くんから笑顔を奪ってしまっているのだろうか。そうなのであれば、私はきっと大罪人になってしまう。

「ち、ちが

 否定を言い終わる前に正面から強く抱き締められた。流れ続ける水音の横で、濡れた手は行き場を無くして宙を彷徨っている。力強い腕に抱き締められて、不安なのか安心なのかぐちゃぐちゃな感情のままで涙が溢れた。アヒルのように醜い嗚咽が込み上げて、匠くんの胸に鼻を押し付けると背中に回っていた腕が私の頭を優しく撫でてくれた。

「僕は亜子ちゃんを笑顔にしたいんだ」

「___も、です」

 匠くんの胸に埋もれたまま、間髪入れずに答える。私もそうなのだと。

「・・・」

 返事がない。多分聞こえていない。こくりと口内の唾液を飲み込んでから、離れがたい胸板から顔を上げた。不安に揺れる瞳と目が合って、私たちは同じなのだと感じた。

「私も匠くんを笑顔にしたい」

「好きだ」

「___え?」

「亜子ちゃんの綺麗で真っ直ぐな心が、好きだ」

 見下ろしてくる瞳がふにゃりと笑って、眩しい笑顔に思わず視線を逸らす。本当にイケメンは心臓に悪い。そして同時に思う。匠くんの好きは、”飼い主に対する犬”の好きだ。彼に悪意は何ひとつない。ただ、彼の瞳に映る私は愛しき人ではないような気がして。

「亜子ちゃん、手は大丈夫?」

 少しトリップしていた意識が、匠くんの声に引き戻される。手は冷えていて、もう燃えるようなヒリヒリ感はなくなっていた。小刻みに肯定の頷きを返せば、匠くんの腕がするりと解かれて離れてしまった。匠くんに触れていた身体が名残惜しさを残したまま、視線だけで背中を追いかける。冷蔵庫の前で止まって何かを取り出しているけれど、こちらからは手元が見えない。戻って来る匠くんはいつものようににこやかで、釣られて口角を持ち上げる。

「あーん、して?」

「あー、っんぐ」

「いい子だね」

 開けた口には氷が放り込まれて、閉じ切れない唇の端から溶けた氷の雫が伝う。拭おうと伸ばした手は匠くんに捕まって、雫はぺろりと熱い舌によって拭い取られてしまった。

「んなっ」

「あ、落としちゃだめだよ。口の中も冷やさなきゃ」

 抗議の声を上げようとしても、両手の自由を奪われたままでは氷を落としてしまう。熱で溶け続ける氷の雫は、口内にも流れ込んでくる。ぺっと吐いてしまいたいけれど、こんな素敵なお家の床に私の唾液を零すなんて出来ない。懇願するように眉を寄せて匠くんに訴えるように見上げると、彼の瞳がキラリと光った・・・気がした。
 その瞬間、氷が口内から消えて代わりに入ってきた柔らかな舌に身体を震わせる。無くなったかと思ったら戻って来る小さくなった氷がカラリと歯に当たり、追いかけて来た舌がそこを舐め上げた。溶けた氷と交じり合った唾液を飲み込みながら、抵抗出来ずにいる両腕を揺らすが更に強く握られる。思っていたよりもずっと男な匠くんに翻弄されていた。

「っは、だめ」

「___どうして?」

 ようやく解放された唇は、まだ濡れて甘い疼きを残している。

「どうしても」

「理由がないなら了承出来ないなあ。だって、僕・・・子どもだもん。わかんない」

「なっ!?」

 棒読みで言い放つ小悪魔は、まるでコ〇ンくんじゃないか! 都合の良いときだけ子どもぶるなんてずるい。けれど理由なんて言えるはずがなかった。私が腰砕けになるんで、やめてくださいなんて。

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