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第二章 秘密のベール、脱がせます。

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 テーブルに並んだ猫のマグカップからは湯気が立ち昇っている。目の前のテレビでは大好きな芸人さんが漫才を披露しているのに、内容が全然頭に入ってこない。私の意識はただ、一点に向いている。
 繋がれた右手は匠くんの膝の上に乗せられていて、時折匠くんが笑いを零すたびに小さく揺れている。こんな甘いカップルのような状況で、バクバクと心臓がうるさいのは私だけなのでしょうか。利き手じゃないほうの左手をカップに伸ばすと、さっと横から伸びてきた手が取っ手を取りやすい方向に変えてくれた。なんと、なんとも・・・ホストクラブでもこんなに至れり尽くせりしてもらえるのかわからない。

「熱いからちゃんとふーふーしてね?」

 可愛らしく笑いながら注意を促してくる声は、我が子に対する母親のように優しい。ちらりと視線だけ匠くんに向ければ、綺麗な二重を細めてこちらを見ている。

 なんなんだ、これは。私は二十七歳。匠くんは十八歳。年上女房は旦那を手玉に可愛がるものではないのか。甘えてくる姿をよしよししてあげるべきなのではないのか。なんだか、悔しい。

「私は子どもではありません。___っつ?!」

 ツンと鼻を上げながらカップを傾けて迎え入れた紅茶が想像以上に熱く、驚いて揺れた手には零れた紅茶が掛かる。「熱い」という言葉が出るよりも先に取り上げられたマグカップはテーブルに着地して、ヒリヒリと痛む左手首は匠くんの手に摑まれていた。

「・・・」

 無言の匠くんに立つように促されて、甲斐甲斐しく支えられながらキッチンへと向かう。握られた手首が痛い。見上げた匠くんの表情は読み取れない。だめな女だと思っただろうか。初めから今までずっと、だめだめな私に呆れているだろうか。溢れ出す不安に自然と涙が込み上げてくる。
 冷たい水が手を伝い落ちていく。それなのに熱く感じるのは、私の睫毛を濡らす涙の所為だと思う。掴まれた手を見つめるフリをしながら俯いて、止まれ止まれと自分の涙腺に喝を入れる。込み上げるしゃっくりを必死で飲み込みながら、どうかバレませんようにと願う。

「___亜子ちゃん?」

「・・・」

「こっち見て? まだ熱・・ぃ」

 しゃっくりを抑えるために口を閉じていた所為で返事が出来なかった。変な間を不審に思ったのか、匠くんの手が私の頬に触れた瞬間にぎゅっと私の手首を掴んでいた手に力が籠る。

「泣いてる」

「泣いてない」

「頬っぺた、濡れてる」

「水が飛んだの」

「___熱くて泣いてるの?」

 そうだと言えば良かった。それなのに正直な私の身体は、ぐっと喉を鳴らしてしまった。

「顔上げて?」

 静かな声だった。でも少し怖いような気がして、ゆっくりと顔を上げる。怒っているかと思っていたから、少し・・・驚いた。眉を寄せて見下ろしている匠くんの顔は、口角がピクピクと無理しているように上げられていた。これは・・・困っているの?



「僕が、亜子ちゃんをそんな顔にさせてしまっているのかな?」


 絞り出された声は掠れていて、胸の奥をぎゅうっと締め付ける。


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