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第一章 ハロー、旦那様。
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しおりを挟む気持ち悪さで目を覚ました。眩い太陽光がカーテンレースをくぐり抜けて、こちらを照らしている。ぼんやりとした思考のまま身体を仰向けからうつ伏せにすると、ふんわりと柔らかいバスローブがはだけて太ももまで露出した。さらさらと肌触りの良い純白のシーツに、軽く暖かい布団は麻薬のように二度寝を誘っている。
見覚えのない室内に、体調はすこぶる悪いが意識だけは覚醒した。白とベージュを基調としたシンプルで清潔感のあるここは、ホテルの部屋に違いない。だだっ広いワンルームという可能性もあるけれど、向こうにはウエルカムフルーツの乗ったダイニングテーブルがある。そのまた先にはソファと部屋に合わせたサイズの大きなテレビに、壁一面は耐久性が心配になるくらいに大きな窓が取り付けられている。行った事はなくても、テレビでなら見たことがある。ここはホテルのすうぃーと、という部屋ではないか。
頭は痛いが、吐くまでではないみたい。ベッドから足を下ろせば、待ってましたと言わんばかりにジャストな位置にスリッパが置いてある。それをつま先に引っかけて、重い身体に鞭打ってソファに向かう。
「___お」
クリーニングに出されたであろう私の相棒たちが、高そうなハンガー掛けに申し訳なさそうにぶら下がっている。いつの間に脱いだのかとかそもそもなんで着替える必要があったのかとか、そんなことは全く覚えていない。洋服の横には鞄も掛けられていて、ぞわりと嫌な予感を感じながら中身を確認する。元々入っていたものは、財布・携帯・鍵くらいであとはリップとかそんなものだ。現金が盗られるくらいならいいほう。クレジットカードやキャッシュカードは手続きが面倒だからやめて欲しいと思いながら財布を開けば、コンビニを出たあの時の記憶のままの財布がそこにあった。携帯と鍵も問題なくある。となると、私の夢の代償は・・・?
寝相の悪さで乱れてしまっていたバスローブの紐を解いて、がばっと前を開く。これまた記憶のままの色気のない下着が、相も変わらず色気のないまま身体に張り付いている。身体には久方ぶりの情事の余韻などカケラもない。
つまり私の酔い潰れた姿に彼の男が奮い立つことはなく、しかも貧相で可哀想になって何も盗らずに置いて帰りました。と、私の推理はこんなもんだ。粗方間違いではないだろう。
わかっていた、わかりきっていた。それでも出てしまった落胆と情けなさのため息に、自分で自分が滑稽で笑いが出る。バスローブを左右に開いたまま、渇いた笑いを浮かべている私は世紀の大露出魔さながら。
「亜子ちゃん。それはサービスかな?」
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