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第5章
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しおりを挟むブラウンの瞳に見つめられてしまい大人しく腰を下ろした。
どうしてだか、私は大谷兄弟に弱い。
「ちゃんと、連絡してくださいね」
「はい、お姫様」
嬉しそうに笑いながら司は、片手でスマホを器用に操作してポケットに戻した。それを横目で確認しながら、沙也加は心の中で小さく”ごめん”と匠に謝った。その後はおすすめされるがままにカクテルを飲んだ。グラスが小さい分どんどん進むが、アルコール度数が高いからと司に調節されながら飲む状況はまるで兄と妹だった。
時刻は疾うに零時を回り、四杯目のカクテルに突入した沙也加はほろ酔いだった。司は同じカクテルをおかわりしただけで、喜んでお酒を楽しむ沙也加を愛おしそうに眺めていた。
「沙也加さん、最近はどうですか?」
「うえっ? 特に普通ですよ。ただ、外には一切出してもらえなくなっていたので、今日はとっても楽しいです。へへっ」
酔っているからか、ゆっくりとした口調になってしまうのを司は急かさず頷きながら聞いてくれていた。その心地よさにへにゃりとだらし無い笑顔を向けた。
「っ・・・。兄さんの事、本当に好きなんですか?」
「へ? ・・・あ、そう、です」
「___”ドコ”をですか?」
「それは・・・」
改めて聞かれるとわからなかった。口数の多いほうではない貴臣さんの事は、正直あまり知らなかった。浮かんでくる言葉は余りにも陳腐で、そんな事は口に出す程の事でもないと思った。
「教えましょうか? 兄さんは余り自分の事を話さないでしょう? それって何故だかわかりますか?」
嫌な予感がした。
「兄さんは結婚するつもりがありません。生涯の伴侶など要らないと思っているので、一時共にいるだけの人に色々話すなんて無駄だと思っているのですよ」
聞かなければ良かった。
以前に結婚する気は無いというのを聞いていたが、やはり改めて言われると落ち込んでしまう。
「何か知りたい事はありますか?」
「じゃあ・・・、みんなの事知りたいです」
「みんな、ですか?」
「はい。貴臣さんだけではなく、司くんや匠くんの事も知りたいです。みんながどんな生活をして、どんな楽しいことがあったのか聞かせてください」
仲良くしてもらっているのに、何も知らない事が嫌だった。それを少しでも埋めたいという気持ちからの提案だった。
司の瞳が揺らぐ。沙也加が真っ直ぐに見つめると、司が小さくため息を吐き出した。
「俺たち兄弟はそんなにいいもんじゃありませんよ」
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