おかえり、シンデレラ。ー 五十嵐社長は許してくれやしない ー

キミノ

文字の大きさ
上 下
6 / 65
第一章 運命の糸は、意図せず絡みつくものです。

1-6

しおりを挟む



 ドアの前に突っ立っている私はトーテムポール。五十嵐社長に上から下まで値踏みするように見られているところだ。「さあ、いくらで買っていただけますか?」なんて言える余裕はないのだけれども。

「俺が言った言葉の意味を理解しているのか?」

 吐き捨てるようにそう言われて、一体何のことかわからなかった。ここ三日間は予想出来ないことの連続で、頭はとっくにショートしてしまっている。何を言われたかなんて、正直ほとんど記憶にない。「あー」と小さく言いながら視線を彷徨わせると、五十嵐社長がこちらに長い脚で四歩迫ってきた。デジャヴ。私はドアに背中を付けて、憧れの壁ドンスタイルになっている。

「お前は・・・化粧品会社の営業」

 そう言いながら五十嵐社長の長い指が私の髪に触れた。今日も365日変わらないお団子スタイルだったのに、クイっと引っ張られた百均のゴムは喜んで解かれ床に落ちる。はらりと肩に落ちた髪は結んでいた箇所でうねり、ピンピンとアホ毛が出ていた。美容室に行かない所為で、肩甲骨の下まで伸びている。

「こんなんでいいと思ってる?」

「・・・」

 心底失礼だと思いつつも、ごもっともな言葉に俯くしか出来ない。震え始めた下唇に、「ああ、私、悔しいんだ」と他人事のように思った。

「こちらを見ろ」

「・・・」

 無駄に距離の近い五十嵐社長を見れば、私のもっと醜いところが見えてしまう。そしたらきっと、もっと馬鹿にされる。自然と瞬きが増えて、身体が心の不安を訴えてくる。

 見られたくないのに、五十嵐社長は許してくれやしない。顎を掴まれて顔を上げさせられれば、観念して視線も上げるしかない。

「・・・」

 無言で見下ろされて、こんなにも一秒が長いとは思わなかった。長い睫毛がぱたりと揺れて、その瞳に私がどのように映っているかなんて想像もしたくない。眉を一度だけ寄せて、五十嵐社長は私を解放した。それでも二十センチの距離で向かい合うのは近いと思う。

「今のお前は何点だ?」

「ゼロ・・・てん、デスカ?」

「百点だ。マイナス百点」

「___わかっていますよ。そんなこと、私が一番。だから、私じゃない人にした方がいいと言ったじゃないですか」

「じゃあ」

 五十嵐社長の両手が伸びてきて、私の両肩にかかっている生気を失った髪を後ろへと梳かす。言葉は刃物のように私を傷つけてばかりいるのに、触れる手が優しくて混乱する。私が女性の扱いを受けることなんて、この先の人生ない事だと思っていたから。

「じゃあ、何点取れたら自分に自信が持てる?」

「え? 私が決めてもいいんですか?」

「何を驚いている」

「いや・・・、私に人権など無いのかと思っていたので」

「すべての人間に平等にある。お前はまず、自分に自信を持つことから始める。いいな?」

「やっぱり五十嵐社長が決めるんじゃないですか」

 抗議は口からポロリと零れ落ちてしまい、お陰で睨まれることになってしまった。

 意識するだけ無駄。私と五十嵐社長に何か起こるなんて一億パーセントありえないのだから。だから私はこれまでの人生と同じように、“オンナ”を出す事なく生きて行こう。

「今日から三か月、ここで自分磨きと営業の勉強をする。もちろん、その間に一千万だ。いいな?」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

そういう目で見ています

如月 そら
恋愛
プロ派遣社員の月蔵詩乃。 今の派遣先である会社社長は 詩乃の『ツボ』なのです。 つい、目がいってしまう。 なぜって……❤️ (11/1にお話を追記しました💖)

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

タイプではありませんが

雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。 顔もいい、性格もいい星野。 だけど楓は断る。 「タイプじゃない」と。 「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」 懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。 星野の3カ月間の恋愛アピールに。 好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。 ※体の関係は10章以降になります。 ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。

処理中です...