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19.夏の夢/躊躇い

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 いつの間にか俺はされるがままになり、染み付いているはずの肌のニオイを夢中で探していた。

 わざとらしい爽やかさ、まとわりつくような甘い匂いは、きっと柔軟剤だろう。
 その中で時々ツンとくるものがある。汗だろう。
 想像してしまう。
 うなじをつたう光の粒。それが首元を這うように流れ、布地へとしみ込んで――。

「もういいかな?」

 解放された頃にはもう、へたへたになっていた。

「はぁ……」

 腰が据わらない。
 荒くなりかけた呼吸をどうにかコントロールしようとするも、苦しくなって余計に熱い吐息をもらしてしまう。

「ねぇ。たっくんも脱いだほうがいいんじゃない?」
「――はあ!?」

 火照った意識が一気に現実に引き戻される。

「一回、おもいっきりしぼったほうがいいよ」
「……し、ぼっ……」

 何故だろう。とてつもなく罪深い言葉に聞こえてしまう。

「いいっ! いいっ!」
「でもこんなに濡れて……」
「いいって! は、早く服着ろバカっ!」

 何度も何度も半裸の響のほうに視線を移しかけたが、慌てて伏せるの繰り返し。
 ダメだ。直視したら絶対におかしな気分になる。

「……っ」

 体温は上がり続ける。
 このまま、ふやけてしまいそうだ。

「もー、カゼ引いても知らないんだからねっ!」

 響はなんのためらいも無く、雨を含んでしまった服に袖を通す。
 濡れたままで気持ち悪くないのかと問いかけようした瞬間、なだらかな下腹部とヘソのくぼみが目に飛び込んできた。
 すぐに水玉模様に隠されてしまったものの、まぶたの裏にはしっかりと焼き付けられてしまう。特にヘソ。思わず指を入れてみたくなるほど、綺麗な丸だった。

「はっ!」

 気がつくと数秒間まったく呼吸をしていなかった。
 慌てて大きく息を吸うと、渇いた喉が痛いほど引きつる。

「たっくん?」
「……っ」
「どうかしたの? くしゃみ出ないの?」
「いっ……いいから、早く焼きそば食うぞっ!」
「はーい」

 とにかくヘソから意識をそらしたくて、麺を一気にかきこんでしまう。一口で半分以上。
 腹が減っていたのもあるが、とにかく間がもたなかった。焼きそばはすっかり冷え、固まっている。そのせいか、口いっぱいに頬張ってもまったく味を感じない。

「あははっ!」

 人が一生懸命もぐもぐしている最中だというのに、響は俺を指差して笑い始めた。

「たっくん、なんか可哀想!」
「あ?」

 服はずぶ濡れ、雑に拭かれたせいで髪はもじゃもじゃ、空腹にまかせ口いっぱいにものを詰め込んでいる――その姿が野良犬のようで不憫だと言いたいらしい。

「……っふ、……お前、な……」

 誰のせいでこうなってると思ってるのか。
 これを飲み込んだら嫌味でも言ってやろうかとたくらんでいると、

「あー! ボク、やっぱりたっくんが好きッ!」

 その一言が、鼓膜に突き刺さった。

 
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