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19.夏の夢/躊躇い
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最初のうちは小さな粒だった。
それがたった数分のうちに大きくなっていき、今や一つ一つがビー玉のよう。
大地に穴を空けそうなほどバタバタと盛大に降り注いでいる。
神社は年に一度の祭りの準備の最中だった。どこもかしこも雨に屈して、台無しになる。
俺はほとんど人のいない屋台通りを駆け抜け、境内を突き進む。
水気を含んだ身体は、重い。髪からは雫がしたたり、服が肌に吸い付くほどになっていた。もはや靴すら意味が無い。踏み出す度ににちゃにちゃと音を立て、ぬかるんだ地面ごと滑ってしまいそうになる。
それでも立ち止まる気は無い。傘なんて必要ない。とにかく進みたい。
響に会いたい――その一心で、ひたすら突き進んだ。
やがて目に飛び込んできた丸い背中に、ハッ、と立ち止まる。
紫と白の水玉模様のポロシャツ。今年初めて見る――いや、去年も着ていただろうか。いつも派手な彼にしてはだいぶ地味目な服だと思った。
「ターラララ♪ ラララ♪」
岩に座り、開いたビニール傘をくるくると回している。
「ラーララータララ♪」
こんな天気だというのに鼻歌の選曲は『キラキラ星』だ。
膝の上で何かを抱え、やまない雨を見上げている。星空を祈っているのだろうか。
俺のことにはまだ気づいていない。
「――響っ!」
雨が作り出した静けさのおかげで、その声は一発で彼に届いてくれた。響は弾かれたようにとび上がってこちらを見た。
「たっくん!? ……えっ、たっくん!? どうしたの!? そんなに濡れて!」
駆け寄ってきても状況が把握できないらしい。ただでさえ丸い目をさらに丸くし、俺を上から下まで何度も往復して見ている。
髪の先から垂れる雫を何故か手のひらで受け止めようとまでしてくれた。
「傘は!? 持ってなかったの?」
「バカが。この前、お前がもって行ったんだろうが……」
「あっ」
響が今さしているビニール傘こそ、あの日、彼が持っていったものだ。
“また返しに来る”と約束したままの――。
「ごめん!」
響は俺にそれを傾けようとする。今更返すというらしい。
一歩後ろへ引いてそれを拒む。
「いい。どうせもう濡れてる」
「カゼひいちゃうから!」
「お前まで濡れる」
雨足はピークを過ぎたようで、だいぶ弱まってきている。傘なんて無くたって平気だ。
「早くっ!」
「いらないって言ってるだろ」
二人の間でしばらく傘は揺れ続けた。
先に痺れを切らしたのは響で、俺の腕をつかみ、ぐっと自分のほうに引き寄せてくる。
「ほら。体、冷えちゃって……」
狭い傘の下、耳元でささやかれた。不覚にも、ぞくりとする。
近い。頬に吐息がかかるほど近い。その胸に額を押し付けてしまいたくなるほど、近い。
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