上 下
108 / 174
17.無意味/解く鎖

1/12

しおりを挟む
 
 ◆ ◆ ◆



 それからしばらくの間は、部屋に閉じこもって過ごしていた。

 照りつける夏の日差しがあまりにまぶしくて――と、いうのは言い訳。

 本当は怖かった。
 外の世界が怖かった。
 また突然、呼吸が苦しくなって、自分が自分でなくなってしまうのではないか――。
 玄関に立つと身がすくみ、様々な不安が脳裏をよぎって、うずくまってしまう。


 そんなことを繰り返していたある日、

 ――『今日すごい!! 夕日がとってもキレイだよ!』

 響からそんなメールが届いた。
 急いで窓の外をのぞいたが、ガラスが汚れているせいで赤い空はくすんでいる。
 俺はどうしても彼が目にしている純粋な空の色を知りたくて、勇気をふり絞り、ドアを開ける。

 そこには、街が静かに焼けているような、澄んだ茜色が広がっていた。

 何も考えず、ただぼんやりと空を見上げた。
 呼吸は乱れなかった。
 気づくと、恐怖心もどこかへ吹き飛んでいた。
 響は他にもいろんなメールをよこした。

 ――『たっくん、最近どうしてるの?』

 ――『せっかく夏なのに、部屋の中なんてもったいないじゃん!』

 ――『ただでさえ肌白いんだから! 光合成しようよ! 真っ黒になってボクをびっくりさせてちょーだい』

 ――『期待してるからね☆』


 一方的に期待されても困るのだが。

 けれど部屋の中にいてもやることがないのは確かだった。
 そこで、大学へ出向き、掲示板に貼り出された短期バイトに片っ端から手をつけていった。
 市民コンサートの会場作り。
 教授が出演するセミナーの看板持ち。
 心理学実験の被験者。
 その他、大学主催イベントの警備やゴミ拾い……等々。
 どれも楽しいとは言えなかったが、少しは世間の役に立っただろう。


 ただ、残念なことが一つ。
 俺の肌は太陽に当たっても火傷のように赤く腫れるばかりで、まったく黒くならないのだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

永遠の快楽

桜小路勇人/舘石奈々
BL
万引きをしたのが見つかってしまい脅された「僕」がされた事は・・・・・ ※タイトル変更しました※ 全11話毎日22時に続話更新予定です

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

学祭で女装してたら一目惚れされた。

ちろこ
BL
目の前に立っているこの無駄に良い顔のこの男はなんだ?え?俺に惚れた?男の俺に?え?女だと思った?…な、なるほど…え?俺が本当に好き?いや…俺男なんだけど…

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...