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15.いたみ/浅い息
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しおりを挟む――“聞こえるよね!?”
いくら力を込めようとしても同じ。掴んでいるのに、感覚が足りない。足りないから、ますます恐怖が膨らんでいく。
心が肺をずんずんと圧迫して、とまらない。
――“大丈夫だよ。落ち着いて、ね。大丈夫だから……”
なにが起きているのか分からず、パニック状態の俺に対し、彼は驚くほどとても冷静だった。
虚しさと苦しさでぐちゃぐちゃになった身体を支え、励ましてくれる。
――“病院行く? 救急車呼ぶ?”
絶え絶えの息の中、遠くの誰かがいやだと叫んでいた。
病院に行けば、身体中を見られてしまう。
首筋のアザ、胸の爪痕。片目が腫れた理由もきかれるだろう。昨晩の名残りが刻まれているところをまた響に見られるくらいなら、いっそこのまま死んだ方がマシだ。
――“歩けそう?”
俺ではない誰かが、駄々をこねる子供のようにぶんぶんと首を振る。
――“分かった。乗って”
背中を向けてしゃがみこんだ響の背中に、ためらいもせずに飛び込んだ。
とにかくイキテイル感触が欲しくて、力いっぱいにしがみついた。
だが、その背中に顔を押し付けた途端、さきほどまでとは質の違う恐怖が込み上げてきた。もっと冷たく、骨の中をうごめき這い回る沢山の指のような不気味さに、身体中がゾクゾクする。
「……ひ、びき……」
乱れた呼吸を掻き分け、怖い、だとか、死ぬ、だとか、いつもなら決して口に出せぬ弱音を次々にこぼしてしまう。
情けないなどと考える余裕はなかった。
――“大丈夫。落ち着いて”
「……おっ、れ……」
――“ボクがそばにいるからね”
「ひ、び……」
――“絶対に死なせないから”
「……ひ……」
――“きっとね、身体が『助けて』って叫んでるんだよ。今までずっと我慢してきた分、苦しくて当たり前だよ”
その励ましに、ボロボロと泣いていた。悲しいのか悔しいのか怖いのか嬉しいのかすら分からず、勝手に涙があふれて、とまらない。
――“大丈夫。ボクがそばにいるよ”
響はよろめくことなく、しっかりとした足取りで歩き出した。
――“一緒に、帰ろう……”
今はただ、彼にこの身をゆだねるしかなかった。
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