お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

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15.いたみ/浅い息

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「……ひ、……びき……」

 いざとなったら、人はあんなにも豹変してしまうのだろうか。

「なぁに、たっくん」

 返事をしてくれた響は、改めて笑顔を浮かべる。そのあたたかな光で、俺を照らしてくれる。いつも通りに。

「……ひっ……」

 彼は何度だって近づいてくる。一度は振り払われたというのに、こりずに、また。
 俺なんかといるべきじゃないのに。
 汚れ切った俺なんかといたら、その目はきっと濁ってしまう。

 せめて響には、ずっと澄んだ心でいてほしいのに――。

 その一言が込み上げたが、口にすることはできなかった。
 呼吸が喉で引きつって、甲高い音がもれる。

「大丈夫だよ」

 そんな俺を見兼ねてか、響は強く言い放った。

「ボクがいるから」
「……っ」
「ずっと、辛かったね」

 ぽんぽんと頭を撫でられた瞬間、たまらなく悲しくなった。

「……ち、がっ……」

 違う、響。
 悪いのは俺なのだ。
 俺なんかよりもっと惨めで辛い思いをした人がいるのだ。
 恋人と弟。大切にしてきた両者に裏切られ、我を忘れるほどの怒りに染まってしまった人が――。

「……ら、……ない……」

 その人は今頃、もう涙も出ないほど、悲しみにくれているはずだ。

「……く、なんて……」

 なのに、こんなに優しい言葉を受け取るわけにはいかない。

 本当は重い罰を受けるべき俺が――。


「辛くな――、ツッ!」


 感情まかせに声を張り上げようとしたときだった。胸の奥が急に熱くなり、ドクドクと脈打つ音が耳にまで届いた。痛いくらいに激しく鼓動し始める。

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