73 / 174
12.射る女/臆病者※
2/3
しおりを挟む
「……俺は、……この、ま、ま……」
溶け出したものは、目頭からこぼれそうになる。
慌てて空を仰ぐと、街灯の白く強すぎる光が目に刺さった。世界のすべてが眩んで見えたその瞬間、
「い、や……だ、っ……!」
唇の間から、心の底の声がこぼれていった。
「……ん、……な、のっ……や、だ……」
気づくと地面に膝をつき、嗚咽をあげて泣いていた。
勝手に歩き出した挙句、迷った。そんな自業自得の子どもみたいに。
「いやだ……、や……だっ!」
どんなに泣いたところで励ましてくれる人などいない。
薄汚くベタついた頬を拭ってくれるのは、自分だけ。
あいつは、ここに来てはくれない。
あいつはもう、俺のもとには帰ってこない。
俺が、突き放したから。
俺が、彼女を叱咤したから。
──なぜ、そんなことしてしまったのだろう。
「……っ、俺、だって……っ!」
──俺だって、幸せになりたかったのに。
「……ひ……び、きっ……!」
久しぶりに口にしたその名は、思っていた以上に乾いて聞こえた。
ずっと、響が幸せになれば自分も幸せになれると信じていた。
だから、いくら鬱陶しくても、腹が立っても、一緒にいた。
報われたい、その一心で尽くしてきた。
いつかこの気持ちに気づいてくれる日を信じて。怖がらずに受け入れてくれると強く信じて。
どうせ伝わらないと諦め、飲み込んできた言葉の数々──そんなものたちに光が当たる日を待っていた。ずっと、ずっと。
それなのに──。
「……響っ!」
まるで羽虫のように、光る画面にすがりついていた。
通話履歴から彼の名と番号を探す。いつも一番上にあったはずのそれは、随分と下のほうに流れていた。
目移りしながら、指の震えを抑えながら、なんとか選び出す。
祈るような気持ちで耳に当てた。
数秒でいい。
つながりたい。
声が、聞きたい。
呼びたい。
その名前を呼びたい。
「……っ」
この空っぽな身体を埋めてほしい。
少しだけ。
少しだけでいい。
「……ひ、び……き……」
一瞬だけで、いい。
俺にも何かめぐんでほしい。
これが最後でいいから。
しかし、いくら待っても呼び出し音は空虚に鳴り続ける。
「……そう、か……」
腕から力が抜ける。
彼の名前が消えた画面に映し出されるのは、時間、今日の日付、それから曜日。
「……もう……、いい……」
二十一時六分、八月五日、火曜日。
彼までの距離はあまりに遠くなりすぎていた。
ここからは引き返せないくらいに──。
溶け出したものは、目頭からこぼれそうになる。
慌てて空を仰ぐと、街灯の白く強すぎる光が目に刺さった。世界のすべてが眩んで見えたその瞬間、
「い、や……だ、っ……!」
唇の間から、心の底の声がこぼれていった。
「……ん、……な、のっ……や、だ……」
気づくと地面に膝をつき、嗚咽をあげて泣いていた。
勝手に歩き出した挙句、迷った。そんな自業自得の子どもみたいに。
「いやだ……、や……だっ!」
どんなに泣いたところで励ましてくれる人などいない。
薄汚くベタついた頬を拭ってくれるのは、自分だけ。
あいつは、ここに来てはくれない。
あいつはもう、俺のもとには帰ってこない。
俺が、突き放したから。
俺が、彼女を叱咤したから。
──なぜ、そんなことしてしまったのだろう。
「……っ、俺、だって……っ!」
──俺だって、幸せになりたかったのに。
「……ひ……び、きっ……!」
久しぶりに口にしたその名は、思っていた以上に乾いて聞こえた。
ずっと、響が幸せになれば自分も幸せになれると信じていた。
だから、いくら鬱陶しくても、腹が立っても、一緒にいた。
報われたい、その一心で尽くしてきた。
いつかこの気持ちに気づいてくれる日を信じて。怖がらずに受け入れてくれると強く信じて。
どうせ伝わらないと諦め、飲み込んできた言葉の数々──そんなものたちに光が当たる日を待っていた。ずっと、ずっと。
それなのに──。
「……響っ!」
まるで羽虫のように、光る画面にすがりついていた。
通話履歴から彼の名と番号を探す。いつも一番上にあったはずのそれは、随分と下のほうに流れていた。
目移りしながら、指の震えを抑えながら、なんとか選び出す。
祈るような気持ちで耳に当てた。
数秒でいい。
つながりたい。
声が、聞きたい。
呼びたい。
その名前を呼びたい。
「……っ」
この空っぽな身体を埋めてほしい。
少しだけ。
少しだけでいい。
「……ひ、び……き……」
一瞬だけで、いい。
俺にも何かめぐんでほしい。
これが最後でいいから。
しかし、いくら待っても呼び出し音は空虚に鳴り続ける。
「……そう、か……」
腕から力が抜ける。
彼の名前が消えた画面に映し出されるのは、時間、今日の日付、それから曜日。
「……もう……、いい……」
二十一時六分、八月五日、火曜日。
彼までの距離はあまりに遠くなりすぎていた。
ここからは引き返せないくらいに──。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる