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11.致命傷/射る女

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「……うっ、……っ……」

 場の主役でありながら間に入れぬ塩田まほは、かなり戸惑っているようだった。その目は潤み、おろおろと落ち着きがない。自分の手元と尾津の横顔をいったり来たりしている。
 その左手の薬指には、例の輝き――。

「俺には、どうしてアンタがあいつを信用できないのか分からない」

 今度は俺から塩田まほに――その指輪に――問いかける。

「好きだから告白したんだろ。……いくら慎重になったって、よく見ていれば分かるはずだ」

 ――俺は、どうなのだろう。

「疑う必要なんかない」

 ――あいつを信用しているだろうか。

「俺が保証する。あいつは、いいヤツだ」

 ――口から自然に滑り出たその言葉に、答えは出ている気がした。

 塩田まほは黙り続けている。俺も黙ることにした。
 これ以上いくら言葉を重ねたところで意味は無い。最終的に心を許すかどうか決めるのは彼女自身だ。
 そのまましばらく無言の時間が続いた。
 それにしても、完全に席を立つタイミングを逃してしまった。まんまと尾津の術中にはまってしまうとは。
 分かっていたはずなのに。
 すっかり氷の溶けたアイスティーのグラスを持ち上げると、手は震え、まるで汗のようにボタボタと水滴が落ちた。

「……ねぇ、まほちゃん」

 静寂を打ち破ったのは、やはり尾津だった。

「前から気になってたんだけど、この指輪は何?」

 彼女の人差し指をツンツンとつつき、自白を促すように問い詰める。

「……こ、これ、は……」
「薬指にしてるってことは大切な指輪よね。いいのよ、隠さなくて。響くんからにしては早いよね。だとすると、前の彼からのプレゼント?」

 そこまでにしてやれ――と、間に入りたいところだが、俺も気になる以上、何も言えない。そうだ。思い出した。もともとは指輪のその真相を聞きにきたのだ。
 彼女はいっこうに返事をせず、こちらにつむじを見せるかのごとく、深く深くうつむいている。

「なんだかんだ言っても、元カレのこと忘れられないんでしょ?」
「裏切られた相手からの贈り物なら、未練と一緒に捨てるか、突き返してやるのが筋だぞ」

 会話の空白に耐えられず、俺も思わず口を挟んでしまった。
 彼女は悔しそうに、体を強張らせる。

「こっ、これは……、ダメです……違いますっ! 捨てられませんっ!」

 そして例の指輪をしている指を、右手の中へと隠した。包み込むようにやさしく。

「……ひ、ヒーさん、からの、……ぷ、プレゼントだから……」
「え、響くんなの? 前の彼氏じゃないの?」
「違います」

 落ち着いてきた心臓がまたバクバクしてきた。全身から汗がふきだす。
 彼女と共に輝くガラスケースを覗き込み、楽しそうにしている姿が、ありありと目に浮かぶ。

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