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9.ふたり/ひとり

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「いくらなんでもそんな言い方しなくったってッ!」

 眉間にシワを寄せ、涙をこらえているような――その悲痛な表情に、胸が痛む。
 見ていたくなくて、俺は思わず顔を伏せた。

「たっくんっていつもそうだね。そうやって一人でなにもが抱え込んでさ」
「そんな、こと……」
「ダメだよ! 誤魔化したって隠したって分かるんだから。親友だからっ!」
「……っ」
「少しはボクに相談してくれたっていいのに――」

 響は俺のことを、見てくれている。
 ずっと前から。
 ちゃんと、“親友”として。

 嬉しい。
 けれど、その片隅で“シンユウ”という他愛も無い言葉に傷ついる俺がいる。

「……バカが」

 声になるのは、いつもの悪い口癖ばかり。

「お前に、相談できることなんて、……あるわけがない、だろ……」

 本当のことなんて何一つ言えない。
 俺がいつも考えているのは、響――お前のことだけなのに。

「……そっか。そうだよね」

 何も知らぬ彼は、まるで己をあざ笑うかのように肩で溜息をつく。

「ボクなんかじゃ頼りないんだ」
「ちっ、……ちがっ……」
「じゃあ話してよ! たっくんよりはバカだけどさ、話ぐらい聞けるのに」

 自らを簡単におとしめ、こちらの言葉をうながしてくる。
 響は、こういうところが優しくて、そして、ズルい。

「ねぇ、何があったの?」
「……ぐっ」

 込み上げてくる感情は手のひらで握り潰し、息を吸う。
 何度問われたところで同じだ。
 真実など話せるはずがない。

 けれど、このまま黙り続けているのはあまりに殺生だと思った。

「……お、お前は……」

 乾いた唇を引きつらせ、胸の内の言葉を外へ放っていく。

 ――この数週間、ずっと言ってやりたかったこと。

「……お前は、……あのと、き……っ、俺が、いればいい、って……言って……くれた……」

 ――何度も心の中で叫んでいたこと。

 だが、いざ、口にしてみると酷く震えた。うまく言葉になっているのかどうか、自分ではよく分からない。

「……なっ、なのに、……お前は、……俺から……、遠ざかって、く……」
「何言ってるの。そんなつもりないよ。ずっとたっくんの――」
「……嘘、だ」

 分かっている。それもいつもの甘い言葉の一つだろう。

「そうやって……、いつもいつも、お前は、俺を――」

 これ以上、惑わされてたまるものか。
 もう二度と、俺は――。

「どうして!? なんでそんなこと言うの!?」

 響はまた声を張り上げた。

「嘘じゃないのにッ!」

 一瞬にして目が覚めるほどの、声。
 彼の胸の痛みがそのまま耳に流れ込んでくるようだった。

「たっくんはボクのことずっと嘘つきだと思ってたの!?」

 ――ああ。

「そんなの酷すぎるよ!」

 ──俺は、何を言ってしまったのだろう。

 人の心なんて変わっていくものなのに。
 昔の言葉にいつまでも引きずられて。とらわれて。こんなにも――。

 バカみたいだ。
 打ち明けたところで、どうにもならないのに。
 やさしい彼を苦しませてしまうだけなのに。
 
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