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6.卑屈弟/探る指
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俺はそれからもしばらく店内を回った。気づかれぬようそっと店員を観察してみる。
だが、恋人を強く束縛するような雰囲気の者はいない。
響は「後輩」と言っていた。それらしき人物は一人しか見当たらない。
──塩田まほ。
俺は本棚から適当に雑学本を取ると、彼女のレジめがけて一直線に歩き出していた。
「いっ、いらっしゃいませ」
か細く、小さな声。
重量感のある前髪からのぞく目は、俺をチラと見上げる。しかし、ほんの一瞬のこと。すぐに伏せられてしまう。おびえるハムスターみたいな姿を見つめ続けるわけにはいかず、俺も思わず視線をそらしてしまった。五千円札をレジに置き、壁に貼られている新刊案内を興味もないのに眺めてしまう。
「……かっ、カバーはお掛けしますか?」
「お願いします」
「はいっ!」
今度は肩に力の入りすぎている。よほど緊張しているのだろう。
その証拠に、本をそのまま袋へ入れようとする。
「あの、カバーは……?」
「ハァッ! ごっ、ごめんなさいっ!」
返事だけはちゃんとしていたが、どうにもボケているらしい。よほど心に余裕が無いのだろう。
彼女はぺこぺこしながら慌てて本にカバーをかけ始める。
ただでさえ赤かった頬がさらに赤みを帯びていく。
尾津はこの娘のどこを気に入っているというのか。
“見てて飽きない”という意味だとしたら、あいつは性根が相当腐っている。
だが、それは俺も同じなのかもしれない。
明らかに年下の女子相手であるのに、優越感を抱かずにはいられなかったのだ。
──こいつが相手なら、響はきっと俺のもとに返ってくる。
根拠はないが、“そうなるに違いない”という安心感が胸いっぱいに広がっていく。
そうだ。
響のそばにいるべきなのは、こんなドジっ子じゃない。俺のようにしっかりと落ち着き、サポートできる者だ。
──きっと、戻ってくる。
ぐじぐじと悩んでばかりで、明るい感情とはしばらく無縁だった心が、ふわりと軽くなったようだった。
おつりを受け取ってすぐに「ありがとうございます」と、先回りして礼を言ってみる。
すると彼女はまた焦り、
「すみません。あっ、あ、ありがとうございました……!」
がくがくと震えすぎる手で本を差し出してくる。
その左手。
俺は、気づいた。
初めて“それ”が目に入った。
その薬指で輝く、銀色が。
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