お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

文字の大きさ
21 / 174
5.艶ノ色/卑屈弟 ※

9/10※

しおりを挟む
 ◆ ◆ ◆




 頭がふわふわする。完全に飲みすぎた。

 あの後、響はすぐに帰ってしまった。
 理由は言わなかったがおそらく、彼女の機嫌を損ね、呼び出しをくらったのだろう。
 彼に罪は無いのに。
 愛する人を信用できないことを棚に上げ、なんだかんだと浮気を疑い、監視し、理由づけ、束縛するような身勝手女など、とっとと捨ててしまえばいい。

 ──早く自由になって、俺のもとへ帰ってくればいい。


 最低なことを考えながら、アパートへ戻った。誰もいない暗い部屋に光をともす。
 溜息をつきながら軽くシャワーを浴び、汗と酒場のニオイを落とした。



 バスタオルで髪を拭いていると、テーブルの上に目がいった。
 空っぽのカップ。
 響が買ってきてくれて、俺が半分食べて、そして彼がこっそりと残りを食べたアイス。その残骸。

 ゴミ箱へ入れようとしていたはずなのに、気がつくと手のひらに乗せていた。

 鼻を近づけると、抹茶の甘い香り。
 舌先を這わせると、苦味があった。

「……はぁ」

 こんなことだけでどうしようもなく、胸が高鳴ってしまう。
 挙句、響が寝転んでいた辺りを思い出し、同じような姿勢で横になる。
 それでも満足できず、ついにはカーペットに鼻を寄せてしまう。

「……ひ、びき……」

 彼の残り香を求めているうちに、指は腹をたどり、下へとおりていった。
 ついさっきまでそんな気分ではなかったはずなのに、込み上げる熱を抑えきれない。


「……っん……」

 ゆっくりとした手つきで、自身を慰めていく。
 通り過ぎる指の感触は新鮮味が無く、とっくに飽きているはずなのに、彼を想うだけで神経が高ぶっていく。
 おまけに、ケティにされながら考えていたことがまだ頭の片隅に残っている。まとわりついて、離れない。

 たった数時間前、彼のいた部屋でこんなことを──。
 情けないはずなのに、声が漏れてしまう。痺れと興奮がだんだんと体を支配していく。きっと、酔っているせいだ。
 硬く張りつめたそこはひくひくと震え、透明な液を垂れ流しながら、さらに強い刺激を求める。


 ──ふと、考えてしまった。

 もしかすると俺はただ、彼と肌を重ねたいだけなのではないか、と。

 ただ単に、友達でも親友でもなくなる危機感を味わいたいだけではないか。
 初めてケティとしたときの絶頂が忘れられず、新たな罪を求めているだけではないか。

「……はっ……んはぁ……」

 どうなのだろう。
 今は、よく分からない。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...