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5.艶ノ色/卑屈弟 ※

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 だいたい、俺は甘いものがあまり好きではないのだ。
 響に付き合って、しょうがなく食べる程度。アイス一つで騙されるわけにはいかない──と、思ったのだが、

「抹茶味なら食べられるよね?」

 自分用のはオレンジ味のアイスキャンディだったのに対し、俺用に買ってきてくれたのはそれなりの値段がするアイスクリームだった。
 心配してくれた、というのは本当なのかもしれない。

「まったく。連絡も無しに休まれると困っちゃうよぉー」

 彼はまるで自分の部屋にいるかのように、床に寝転がる。
 右手で頬杖、左手にはアイス。こなれた様子でこぼさず食べ始める。

「今日、すごくヒマで寂しかったんだからね」
「……ッ!」

 アイスのふたを開けながら、俺は思わず肩をすくめる。

 胸の奥が苦しかった。

 違う。
 俺がいなくったって、響はうまくやり過ごせる。きっとどうってことない。
 なのにこんなことを言うのだ。

「やめてくれ……」
 小さく放った声は当人に届くことはなく、

「あっ! どうしたの、そこ」

 何も知らぬ彼は大きな声を上げた。
 驚いたように目を丸くし、アイスの先をこちらに向けている。
 気づかれた──。
 慌てて首元を隠し、言い訳を考えるも、

「それ、猫? 犬?」

 響が見つめているのは右腕だった。

「うひー。かなり痛かったんじゃないの?」

 それは手首と肘の真ん中あたりにあった。
 くっきりと残っている歯型。ところどころ血のにじんだ痕。


 ──「……ふっ、ぅんん……!」

 湿った音とくぐもる自分の声が鮮明に蘇った。


「なんでもない」

 昨日のことを言い当てられた気分になり、背中が一気に熱くなる。たまらず、響の視線から逃げ出した。恥ずかしさと情けなさがこみ上げる。
 彼に背を向けたところで改めて確認してみると、手の甲側だけではなく、手首側にも痕がしっかりと残っていた。
 さすがにその両方を見たら、人間のものだと勘づかれてしまうだろう。

 これ以上見られたくなくて、脱いだままにしていた薄手のパーカーを羽織る。
 幸い、ファスナーをあげると首元も隠れた。

「あれ? でも龍広くんって動物苦手じゃなかったっけ」
「ん?」

 好んで近づくことはないが、それほど嫌でもない。急に何を言い出すのだと思わず眉間にシワを寄せたとき、

「前にイヤだって言ってたじゃん」

 と、響はきっぱりと断言した。

 そういえば以前、彼に猫カフェへ行こうと誘われたことがあったか。
 近所でも見れる動物にわざわざ金を払うなど億劫で、適当に理由をつけて断った──覚えがあるような、ないような。
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