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欲にも体の火照りにも負けそう※

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「……。あの男には絶対に心をゆるすんじゃないぞ、ワシオ」

「へ?」

 そんなこと言われてもあの人は鷲尾の師匠のような存在だ。これまでの積もり積もった恩もある。心をゆるさないなんてありえないのだが──。


「……はあ。気が変わった」

 鷲尾の肩に爪を食い込ませていたイバラは
あっさりと背中からおりてしまった。
 鼻先にはまだ赤色の痕がうっすら残っているものの、出血自体は完全にとまったらしい。

「悪いが、今日はここまでにしてくれ。お前の背中でニュースを読むのも捨てがたいが、僕には僕の戦いがある」

「え?」

「服は洗って返す。助かったぞ。ありがとう。今日は最高の記念日だ」

「大げさっすよ」

「そんなことはない。心の底から嬉しかったんだ僕は」

 鷲尾の黒パーカーを我が子のように抱きすくめ、イバラは穏やかに微笑んだ。
 昼間のツンとした冷たく鋭利な表情は消え、いかにも少年っぽいあどけない可愛らしさが顔を出す。

「……!」

 心臓の端っこあたりがうっかりくすぐったくなったのを、鷲尾は慌てて取り消した。

 違う違う。

 胸キュンなんかじゃない。


 それにしても、守谷さんとイバラが同じマンションに住んでいるのは妙だ。いくら職場が近いとはいえ、単なる偶然の一致ではない気がしてしょうがない。
 そういえば局で二人が顔を合わせたときも、ただらならぬ雰囲気だったが──。


(もしや不倫関係だったりしてな……)


 疑うことは簡単。しかし、なんの確証もない。否定も肯定もできない。
 いまこの場で判断できるほど、鷲尾は二人の私情を知らない。

 とりあえず──眠い。


 ぼやけていく脳内では今日一日のことが走馬灯のごとくぐるぐるしていた。色々あった。ありすぎた。
 
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