一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

イバラのみち、天使のはしご

33

　

　このまま頭を掴まれ続けたら、骨がビキビキ割れて、穴が空いて、脳ミソごとにじっぴの外へ引きずりだされてしまう──鷲尾はそんな危機に泣きそうになった。
　けれど、


「ボクを怒らせるとどうなるか分かったかな？　にじっぴ」


　ぞくりとクるほどやさしい声。
　指の力がフッとゆるみ、そして鷲尾はまた、動けなくなった。



「来てくれてよかった。心配したんだよ」


　しゃがみこんだ一條さんは両手を大きく広げ、にじっぴを抱きしめた。
　ぎゅむっと音がしそうなぐらいに。


（はわわわわわ……！！！）


　一條さんのツヤツヤのおでこが鷲尾の目の前に迫ってくる。
　こんなことになるなんて思いもせず、たまらなくドギマギした。いてもたってもいられず、逃げるように目を閉じる。

　バクンバクンと弾む心臓の鼓動。
　皮ごしに振動が伝わってしまうような気がして、ちょっとだけのけぞる。


「今日は無事に終わったけど、これからはちゃんと本番前に来なきゃダメだからね。せめて５分前にはスタンバイしていること。分かった？」


　素直に、こくんとうなずけば、「よしよし」とご褒美のナデナデ。後頭部までは手が届かずに耳のあたりをさすってくれる（にじっぴには耳がないので、人間でいうところの耳の位置）。

「ごめんね。力入れすぎたかな？　ちょっと痛かったね。よしよし」

　わしづかみで逆立った毛並みをやさしく整えてくれる。


（一條さんっ……！）


　ちょっと痛いどころではなかった。
　頭をカチ割られてブッ殺されるかと思った。

　でも、誤解されたままなのは殺されるよりも辛い。


（一條さん誤解させてごめんなさい。オレは誰になんて言われようと、なにがあろうと、一條さん一筋です。絶対っ絶対っ！）