一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

イバラのみち、天使のはしご

4

　

（あんなに可愛すぎる一條さんが、夜中はアンアンして……おもいっきりイってんのかっ！？）


　ぶんぶんと頭を振り回す。
　冷静になれと念じ、目を閉じて冷静に冷静にいま見た光景を思い返した。


　青空を見上げるふんわりとした微笑み──しかし、その両手にはぱんぱんに詰まったゴミ袋を持っていた。
　丸めたティッシュでいっぱいの袋だった。

　あれは圧倒的な現実の証。


（あ、あはは……一條さんも花粉症、だったかなぁ……だったような気がするなぁ……じゃなかったような気もするなぁ……まさかなァ……）


　どきどきしながら息を殺し、ゴミを出し終えた家主が引き返してくるのを待った。

　この部屋に人が住んでいると悟られないように、ドアには指ではなく、爪をひっかけて待った。

　

　戻ってきたのはやはり一條さんで間違いがなかった。

　すらりと伸びた脚を包むのは、毛玉だらけな灰色ズボン。
　サンダルは大きくて脱げそうなのか、歩く度にズルズルと音が鳴る。
　大きめの黒スウェットには錦鯉らしき大きなプリントが入っている。胸から肩にかけて、勢いよく跳ね上がる赤と黒のまだら模様の鯉。


　スーツではない私服の一條さんを見るのはこれが初めてだった。

　ハッキリ言って、めちゃくちゃダサい。
　あくびをしながら、腰をトントン叩く仕草はなんともジジくさい。

　でも鷲尾にとってはすべてが最高のご褒美。