一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

それでもゴールは相合傘の下

36※

　

（くそっ……）


　悔しさに唇を噛みしめるも、漏れる息は妙に熱っぽい。
　肉体に響き渡るドクドクといううるさい振動は、隣の部屋からなのか、自らの心臓の揺れなのか分からない。


　肝心なところは中途半端に火照ったまま。

　隣の部屋の気配は失われる。逝ってしまったのだろうか。なんの声も音もしなくなる。


　こうなってしまうと、鷲尾の体をおさめる方法は一つしかいない。一人しかいない。
　おもむろにそこを擦れば、ねっとりした液と指先が擦れる。ひくっ、と喉元が震えた。


（……いち、じょお、さんっ……）


　彼を抱きしめたときに感じた甘い香りを思い出すだけで、ふわりとした癒やしに包まれる。

　なのに切ない。


　一條さんは春のような人だ。
　近づいてくるときにはポカポカとやさしいのに、こちらから歩み寄ろうとすると遠ざかってしまう。
　そのたびに冬のような厳しい冷たさや不安がよみがえってしょうがない。

　鷲尾が思うに、一條さんのなかには二つの温度が存在している。

　鷲尾の想いを受け止めようとしてくれた優しさ。
　でも、今の自分では無理なのだと心を閉ざしてしまった厳しさ。


　ふもとの町で梅や桜が美しく咲き乱れても、高い高い山の上はいまだ雪と氷で閉ざされているみたいだ。

　雪どけの日はいつになるのだろう。


（一條さん……）


　ひとりぼっちの手筒はひやりと冷たい。