一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

それでもゴールは相合傘の下

23

　
　そういえば、葵がいま食べている葉っぱだらけのグリーンパスタも「何入ってるかぜんぜん分かんないけどおいしー！」とゴキゲンだ。

　前に「パクチーを美味しく食べる人って意味分かんない！あんなの雑草でしょ！？」と吠えていた葵だが、そのパスタにはレタスやほうれん草にまぎれてパクチーが入っているように見える。


　詳細が分からなくてもとりあえず楽しんでしまえる大雑把な性格。

　そんな弟が危なっかしくもあり、たまらなく愛おしい。自分に近い部分を感じるせいだろう。


「にじぴたん……あのふかふかムチムチっぷり……あああううー、思い出しただけでたまんない！　一條さんだけいいなあ。あおちゃんもぎゅーってハグしてもらいたいなぁ」

「ハグどころかおもいっきりタックルされてたじゃねーか」

「ん？　なんで知ってるの？」


　ぐ、と言いよどむ。

　油断した。
　葵がタックルされたのは中継の前。
　鷲尾が知っているのは不自然だ。

　くわえていた紙ストローを思わず噛みちぎってしまった。
　ダンボールみたいなザラついた味とコーラの甘みが混ざりって、夏休みの工作を思い出す風味になる。


「お、オレが仕事サボって、にじっぴにタックルされてたって噂になってたんだよ……」


　とっさについた嘘は、顔そっくりの双子として長年やってきた機転のたまもの。

　小学校時代の夏休み、ぬるいコーラを飲みながら炎天下をだらだらと歩いていたら、ホッキョクグマのような大男に襲われたことがある。「なにをやっている！」と怒鳴られ、首根っこを掴まれてずるずると引きずられた先は、柔道教室。

　葵はその日、拾ったクマちゃんのぬいぐるみをきれいにするのに夢中で教室をサボっていたのだ。


　そのときは兄としての使命感で葵になりきって過ごし、大事にならずに済んだ。


　そういう取り違えや濡れ衣の事件を何度経験したことか──。