一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

それでもゴールは相合傘の下

16

　

　これはチャンスだ。鷲尾はグッと手のひらを握る。

　葵のおかげでひとまずは一條さんを悩ませたままでいられるだろう。
　にじっぴの中の人の正体をハッキリと知られずに済む。

　守谷さんにもきっとバレない。

　多少の怒りは感じるものの、落ち着こう。これは好都合だと取るべきだと思った。


　しかし、


「いちじょーーさーーん！こっち来てくれませんかーー！？」


　突如、葵が一條さんを呼んでしまった。

　にじっぴと一緒に写真を撮りたがった女子高生がせっかくなら一條さんも一緒がいいと言い出したのだ。


「いっちじょーさあああんん！！！！」


　声をかければ気付ける距離なのに、大げさに両手をぶんぶん振っている。


　まずい。

　

　至近距離まで近付けば、さすがの一條さんも目の前にいる鷲尾がいつもよりほんのちょっと背が高いことに気づくだろう。


　ヤバい。


　どうする──否、悩んでいるヒマはなかった。

　にじっぴは追い風に乗るようにグワッと走り、短い足もなんのその。無防備な弟の背中に容赦なくタックルをお見舞いした。


「ぎゃっ！」


　空気のかたまりとはいえ勢いだけはミサイル同然。葵は昨日の一條さんのようにぶっ倒れた。

　だが、鷲尾は知っている。

　葵は運動神経がばつぐん。そのスキルは鷲尾も負けていないが、葵は柔道経験者なのだ。どんな不意打ちをされたって自動的に受け身をとるようにできている。


「わはーっ！　にじっぴちゃん、すごいパワー！　感動的っ！！」


　予想通り、葵はダンゴムシのごとくころりと丸まって受け流し、けろり。