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あめ降って地固まる
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◆ ◆ ◆
例の中継の後、一條さんはひからびかけのナメクジのごとく、デスクにへばりついていた。
にじっぴの下から救い出され、医務室に運ばれて「ケガは無いね」と言われたものの、一條さんは首を折られた花のようにぶらんぶらんと生気がない。
見えない傷が彼をむしばんでいるのは誰の目からも明らかだった。
本当は帰宅させるべきなのだろう。しかし、夜の気象情報の原稿を書く仕事が残っているからと一條さん自身が帰ろうとしないのだ。
スタッフ陣は遠目にあわれみの視線を送り、「元気がでるものをあげよう」とチョコレートや飴玉やクッキーをかき集めた。
山盛りになったところで「誰に届けさせようか」と話し合いの末に送り出されたのは、よりにもよって鷲尾だった。
(オレむりっ! オレむりむりむり! オレには無理だってぇえええ! だってオレがにじっぴ……事件の主犯なんだってぇえええええ!!!!)
心のなかで何度叫んでも、正体を明かせない以上はキャンセルできない。
スタッフのなかで一條さんと親しくコミュニケーションをとれていたのは、鷲尾に違いなかったのだ。
「いっ……いっ、いちじょお、さぁ……」
一ヶ月前の告白のあと、きちんと話をするのはこれが初めてだ。
鷲尾は『新番組の準備で忙しくて』と大ウソをついて、一條さんとの反省会から逃げていた。本当は気まずくて避けていただけだ。
「あのー……あのぅ、いちじょお……」
鷲尾は一歩ずつ、じりじりと近づいていく。
例の中継の後、一條さんはひからびかけのナメクジのごとく、デスクにへばりついていた。
にじっぴの下から救い出され、医務室に運ばれて「ケガは無いね」と言われたものの、一條さんは首を折られた花のようにぶらんぶらんと生気がない。
見えない傷が彼をむしばんでいるのは誰の目からも明らかだった。
本当は帰宅させるべきなのだろう。しかし、夜の気象情報の原稿を書く仕事が残っているからと一條さん自身が帰ろうとしないのだ。
スタッフ陣は遠目にあわれみの視線を送り、「元気がでるものをあげよう」とチョコレートや飴玉やクッキーをかき集めた。
山盛りになったところで「誰に届けさせようか」と話し合いの末に送り出されたのは、よりにもよって鷲尾だった。
(オレむりっ! オレむりむりむり! オレには無理だってぇえええ! だってオレがにじっぴ……事件の主犯なんだってぇえええええ!!!!)
心のなかで何度叫んでも、正体を明かせない以上はキャンセルできない。
スタッフのなかで一條さんと親しくコミュニケーションをとれていたのは、鷲尾に違いなかったのだ。
「いっ……いっ、いちじょお、さぁ……」
一ヶ月前の告白のあと、きちんと話をするのはこれが初めてだ。
鷲尾は『新番組の準備で忙しくて』と大ウソをついて、一條さんとの反省会から逃げていた。本当は気まずくて避けていただけだ。
「あのー……あのぅ、いちじょお……」
鷲尾は一歩ずつ、じりじりと近づいていく。
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