一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

あめ降って地固まる

9

　

　──自分は一條さんの最高の相方なのだ！


　鷲尾は興奮のあまり全身がほこほこと熱くなり始めていた。
　着ぐるみのなかに閉じ込められているはずなのに、どこまでもどこまでも広がる自由な場所へと解放されていくような爽快感。

　要するに、調子に乗り始めたのだ。

　だから一條さんが台本通りに「なになに？」とにじっぴのほうに耳をむけた瞬間、我慢ならなくなった。

　テンションが上がりまくって脳みそが沸騰し始めたのかもしれない。
　ランナーズハイならぬ、マスコットハイ。


　着ぐるみのなかは自分の汗のにおいでムンムンしているはずなのに、一條さんのほうからとってもあまくってやさしいミルクような香りがする。

　疲労のあまり、脳がエネルギーとなる糖を欲しているのかもしれない。
　しかし、鷲尾が本当に腹のそこから欲しているのは糖ではない。


　一條さんが欲しい。


　キスしたいと思ってしまった。

　チューだ。チュー。


　この一ヶ月、とても気まずくて一條さんに声をかけられなかったストレスが理性に亀裂を走らせる。ヒビ割れから這い出すのはどろどろと燃える欲望。


　キスしたい。

　チューしたい。


　本番中だろうが関係ない。

　にじっぴという皮ごしならば、なんでもできる。誰も見てない。誰にもバレない──。