一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

失恋と立ち退きと中の人

11

　

　真夜中の上司。
　誰にも言えない秘密の連絡──。


　まさか。

　禁断の世界へのお誘いだろうか──。

　いやいや、そんな。
　しかし、下心を否定しきれない鷲尾がいる。


　守谷さんは他の上司とは違い、AD時代の鷲尾にとても優しく、決して雑に扱わなかった。
　たとえ失敗して叱っても最後には「期待しているよ」と、黒縁メガネの奥のまんまるの瞳をゆっくりと細めた。
　背中をさすって励ましてくれた。

　鷲尾にディレクターの仕事をまかせようと言い出したのも守谷さんだ。


　一條さんに出逢う日までは、ひそかに守谷Ｐ推しだった記憶がいまさらよみがえる。


　イケメンのアルパカみたいな守谷さん。

　常に一歩引いた態度の守谷さん。

　クール紳士なのに、ボディタッチの回数だけは妙に多かった守谷さん

　酔っ払うと語尾に「ニャン」ってつけちゃう守谷さん──。


　まさか。


　私生活では元アナウンサーの超美人な奥さんがいて、もうすぐ幼稚園に入るお嬢さんがいて、順風満帆のできる男が──。

　まさか。

　その人が「絶対に他の誰にも言うな」と入念に釘をさしてくるということは──。

　まさか。


『はいってくれ』

「ま、まさか、オレがっ！？　だめですッそんなの不倫ですっ！　オレが守谷さんに突入なんて──」


『にじっぴの中に入ってくれ！　来月からどうか！　頼む！』


「実はオレ一條さんのことがっ……だから他の人に突っ込むのはゴメ……って、あ？　ん？　来月？　にじっぴ……？」


　そのとき気づいた。

　口下手で物静かにスタッフを見守る守谷さんの姿が、ノーリアクションで一條さんの横に突っ立っている姿に重なることを──。