一條さんとにじっぴ！ 〜そのマスコットは気象予報士を愛しすぎている〜

失恋と立ち退きと中の人

9

　

　かわいそうなイメージがむくむくと膨らんでいくのが嫌で、録画していた今日の天気予報を見返してみることにした。


　一條さんはひとりでしゃべっているときは、とてもなめらか。
　聞き取りやすく、間まの取り方もばっちり。


　それなのに、にじっぴのほうに視線を送ったとたん一気に調子を崩す。
　電池切れ間際のようにギクシャクとぎこちなくなる。

　ベテラン予報士が、ぽんこつ素人になる。


　いつまで経っても不慣れな感じが最高にかわいい──鷲尾は今まで興奮するばかりだった。

　ギクシャクの原因なんて考えたこともなかった。


　もしかすると一條さんもにじっぴの正体を知らないのではないか。

　一発勝負の生放送で、なんの打ち合わせもリハもせず、ぶっつけ本番でやり取りするなんて流石におかしいが──。

　もし本当にそうならば、緊張しすぎてぎこちなくもなるだろう。
　うまくできなくて当然だ。


　鷲尾の黒歴史が脳裏をよぎる。

　相方のマッチョがジムに通って筋トレばっかやっているせいでロクにネタ合わせもできず、ほぼぶっつけ本番で舞台にあがり、もれなく大スベリしまくった日々──。


　いまでも夢の中で芸人時代にもどって大スベリしたり、舞台に上がった瞬間にネタを全部忘れる。


　客の白い目や重苦しい空気や申し訳なさそうな苦笑いを思い出しては、激しくうなされてしまう。

　鷲尾には分かる。
　ぶっつけ本番で人前に出るというのは、それほど強いストレスなのだ。