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6 その悪夢にはキリがない

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「……や、……もぉ、しんじゃ……」
「どうする? 頭叩かれすぎて脳ミソいかれて死んじまったら」
「このまま死ぬのとおとなしく三万払うの、どっちがいい?」
「三万の命とか安すぎるよね」
「さあ、選べよ。じゃねぇとマジで殺しちゃいますよー!」

 だが、やつらは返事を待つことなく、腹めがけてヒザ蹴りを食らわせ始めた。


 ──俺には関係ないが。


 あいつが着ているブレザーには、昨日、アイロンをかけてやった人間の真心がまだ残っている。
 なのに、そろいもそろって汚ぇ足でゴミクズみたいに蹴り上げて、ぐしゃぐしゃのシワを作りやがって。



 ──俺には。



「いい加減にしろ! テメェらッ!」


 いてもたってもいられずに飛び出した俺は最も早く振り向いた左の坊主の顔めがけ、拳を振り上げる。
 ぺきん、とプラスチックの板が折れたような感触と共にだんごみたいな鼻頭がひしゃげた。

 悲鳴をあげながら倒れていくクズと飛び散る赤い雫を俺はとても冷静に見送った。
 加減はしたはずなのに、思った以上の力が入っていたらしい。

 こいつら三人は、背が高いせいで表面的にはたくましくて威圧的に見える。二の腕も胸板もまるで大木のように太い。だが、ただ筋肉量が多いだけだ。
 せびった金で毎日ゲーセン三昧では、殴り合いの機動性に欠ける。


 その上、隙だらけだ。
 倒れこむ仲間に気をとられた剃り込み坊主の腹には蹴りを食らわせ、その巨体を残りの一人めがけてぶつけてやる。ついでにソーダの缶を威嚇のごとく地面に投げつけてやれば終結。

 不良坊主どもを地に伏せさせるまで五秒とかからなかった。驚くほどあっけない。
 
 
 
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