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3.健太は気まぐれテキトーペース
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しおりを挟む「そんなに文句あるなら、俺がおかわり用の弁当作ってやろうか?」
「えっ、マジ!? 凛也の料理チョーうまいんだよなああ!」
身を乗り出した健太の目には、今、あのときのカノジョと同じ光の粒が浮かんでいる。
俺には遠すぎる光。
触れたくても触れられない、手に入れることも、閉じこめることさえも許されないもの。
それを一瞬でも俺に見せてくれたという感動が、首の後ろをカッと熱くさせる。
──やっばり、俺はまだ……。
「あ……、でも、すまん。やっぱいいし」
だが、輝きはまるで雲間からあらわれた流れ星のようにほんの数秒で終わる。
「よく考えたら別の弁当食うとかアイツに悪ぃし、あとから売店でパンでも買うわ」
確信はしたところで虚しいだけだった。
「そうか……。だよな。俺こそごめん」
叶わない願いに未練がましくしがみつこうとした罪人に残されるものはなにも無い。石ころのように地に落ちた余韻を拾うこともできず、ねっとりとした首筋の熱だけがただ不快だった。
まるで糸が切れたかのように、それっきり新しい会話が始まらなかった。
俺も健太もなにか話さなくてはと考えているのに、ふわふわとうわの空。
彼はしきりに左耳のあたりをいじっている。先週空けたばかりの穴が気になるらしい。カノジョとおそろいだという銀色のフープピアス。
──些細な切なさをあげればキリがない。
妙な沈黙がやけに重苦しくて、面倒なことを口走ってしまわないように夕飯づくりに取りかかることにした。
いちいち着替えるのは億劫で制服の上からエプロンをしてしまうと、俺の回路は切り替わる。これから腹を空かせて帰ってくる弟たちのために腕によりをかけなければならない。
さっきまでの下心がさっぱりと洗い流されていくよう。
「そろそろ帰るわ」
だが、健太のほうはよそよそしいままだった。
いつもなら誘わなくたって居座って夕飯を食べていくのに、ポップコーンのカスをテキトーにはらうなりカバンを掴んだ。
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