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・せんちゃん、はじめての仮病
ガビガビ
しおりを挟む「せんちゃん」
優兄はいつの間にかオレのベッドに腰かけていた。笑顔の裏側からにじみ出るオーラがなんだかいつもとは違う。
「先生のお粥、美味しい?」
口調こそやさしいけれど、言葉とは裏腹の怒りのような電波がビシビシ飛んでくる。
「お、おいしい。け、けど、優兄の──」
「ぼくも食べようかな! せんちゃんはゆっくり寝ててね! さあ、阿須崎くんも先生もリビングに行きましょ! せんちゃんはカゼなんですからそっとしておいてあげないと!!」
優兄は立ち上がり、いつになく早口でしゃべりながらオレの部屋から撤収した。
ナナフシだけでなく阿須崎も素直にそれに従って、「おだいじに……」「また来るで!」とドアを閉めた。
残ったのはまだあたたかいお粥と、仮病のオレ。それからイヤな感じの胸騒ぎ。
もしかして、オレがナナフシの手料理をおいしいって言ったから怒ったのだろうか。
そんなまさか──と思ったものの、もしも、オレが逆の立場だったら猛烈に嫉妬する。
病気で弱ってる優兄がオレ以外のやつの手料理をおいしいって褒めたら、絶対にヤキモチ焼く──。
「くそっ……ナナフシが話しかけてきてから変なことばっか……」
たまごとほうれん草とお米のまろやかなハーモニーに反して、オレの心は肘にくっついた米粒みたいにガビガビに乾いていくような気がした。
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