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・ゆっくりおさんぽしよう(ほのぼの)

キスの代わりに

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「せんちゃんどうしたの? さっきからずっと黙って。お腹空いた?」

「う……」

 優兄が指にぎゅっと力を入れるたび、首をしめられているような苦しさが込み上げていた。我慢できない。

「優兄! やっぱオレ、手のほうがいい! つなぎたい! つなぐねっ!」

 青信号に変わる寸前に優兄の左手をぎゅっとつかんだ。ちっちゃい頃からやっているこのスタイルが一番落ち着く。

「せんちゃんの甘えん坊」

「だって車とか人とか今日けっこう多いから、危ない。離れちゃいそうで心配だから」

 本当は交通量も人通りもいつもの休日って感じだけど、他にうまい言い訳が見つからなかった。

「ふふふっ、そっか」

 太陽の光のなかで見る笑顔はいつもよりやわらかく見えるから、ふしぎだ。

「いつもありがとね」

 まるいほっぺが甘そうで、ぐっと近づいてキスしたくなる。
 さすがにそれだけはできない。今は我慢。



 ◆ ◆ ◆



「やっぱりお腹空いてたんだ?」

「うん。まあ、ね」

 キスの代わりに買った甘くてしっとりとしたクレープに口づけ。

 チョコバナナ味。
 やわらかな生地とまったりとした味わいがいつも通りの安定感でホッとする。


「せんちゃんって昔っからずーっとチョコバナナひとすじだよね」

「だめかな?」

「別に良いんだけど、チョコバナナ以外の気持ち考えたことある?」

「ん?」

 ふしぎなことを言い出した優兄は、クリームチーズ&ブルーベリー味を食べている。

「だってね、人気があるのはいろんな人にたくさん食べてもらえるけど、人気がない味も誰かに選ばれるのを待ってると思うんだ。ぼくがその人でありたいって思う」

「変な理由」


 でも、やさしい優兄っぽくて好きだ。


 そういえばレストランに行ったときも、オレがスタンダードなものを頼む一方、優兄はあんまり人気が無さそうなものを食べたがる。
 昔からそうだ。

 メニューのすみっこでいじけているようなのを頼むから、調理に時間がかかっていつまでも出てこないこともある。
 そんなときは決まって「待つのも楽しいんだよね」とお腹を鳴らしながら言い訳しているっけ。

 出てきた料理はだいたいあんまり美味しくなさそうなのに、優兄はどこか誇らしげだった。

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