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・ひとりぼっちの土曜日(微R15/ヤキモチ)

内緒だ

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◆ ◆ ◆



 家に帰ると、優兄は起きていた。

 ホワイトフルーツロールケーキを買ってきたことを話すと、心におひさまがあらわれたみたいに表情が明るくなった。寝込んでたとき、ちょうど食べたいと思っていたらしい。


「ありがとう! せんちゃん大好きっ」


 今朝の弱々しさはもう感じない。大丈夫そうだ。
 どうしようか迷ったものの、ぬいぐるみも渡すことにした。

 さっきまでオレの下心を隠すのに使っていたのは内緒だ。それから、阿須崎からのプレゼントであることも──。


「うわあああ! ありがとう! 大事にするねっ!」


 マシュマロみたいなふわふわをほっぺにくっつけ、ぎゅーっとしている優兄は、嬉しすぎるのかその場でくるりと一回転した。
 すっかり元気になった証だ。

 ほっとしつつも、無意識のうちにパーカーのポケットの上をなでていた。こっちのことまでは絶対に話せない。


「むにむにのもちもちのふかふかでたまんない! あーん、放したくないよ! どーしよう」

 そのことば通り、優兄はすっかりぬいぐるみに夢中になってしまった。

 ロールケーキを二人で半分ずつ食べてるときも、そのあとにソファーでオレの太ももをまくらにしながらゴロゴロしてる間も、いつまでもいつまでもその腕のなかには、かがみもち。むにむにのモフモフ。


「──優兄っ!」

「ん? ……あれ?」

 気づいたら、そいつをぶん取っていた。
 急に愛しのモチモチちゃんが消えて、優兄は指を動かしつづけている。恋しそうに。

 さすがに腹が立つ。
 優兄にイライラするなんて有り得ないはずなのに、爆発を抑えきれない。


「さっきからこいつばっかズルい! オレは!? オレまだハグしてもらってないんですけど!」


 ぬいぐるみをソファーの外にぽーんと追い出し、オレが優兄のもっちりほっぺを独占。手のひらでサンドイッチする。


「せんちゃんったらぬいぐるみにヤキモチ?」

「……っ」


 厳密にいうとそうじゃない。
 アホ崎を抱きしめているみたいでムカムカするんだ。オレが見てるのにずっといちゃいちゃしてるみたいで──。

 でもこんなこと、絶対に口には出せない。

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