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・ひとりぼっちの土曜日(微R15/ヤキモチ)
アホ崎
しおりを挟むうんざりだ。
すべて台無し。もともと最悪だったのが、さらに悪くなった。
なにも言わず、クレーンゲームの前から離れようとしたが、アホ崎はオレの横にべったりとくっついてくる。
ヒマなのだろう。
アホ崎は駆け出しのお笑い芸人らしい。
でも半年前、相方だった彼女に浮気されて以来、ずっと『勇者アスザキクエスト』の名でピンで活動している。
──とはいっても、たまに小さな劇場に出るぐらい。
ふだんは、なけなしの小銭でゲットしたゲーム景品をフリマアプリで売りまくっているらしい。
「今日はゆったんと一緒じゃないん? めずらしいな。お前ら兄弟いっつもべったりですやん」
エセ関西弁なしゃべり方も鼻につく。関西弁を使えばセンスのないトークもおもしろく聞こえるだろうという計算がムカつく。
「うっさい。ついてくんな」
「なんでですやん? ゆったんはよくて俺はだめなん? 冷たいですやん!」
「マジうるさい」
ウザい絡みを振り切ろうとしたとき、突然、オレらの前に小学生ぐらいの男の子が走ってきた。
かと思えば、阿須崎にむかって満面の笑顔で手を振ってくる。
「アスザキクエストじゃーん! ウェーイ!」
小さなパリピのキラキラしたまなざしには、敬意の色。
「おう、少年よ! うぇーい! オレのサインがほしいのか?」
「ううんっ、いらねーわっ」
少年はキッパリ言うとあっさり走り去った。
しゃがみこんで親しくハイタッチしたのに、爆速で逃げられてやんの。──にも関わらずアホ崎はニタニタと嬉しそう。
「どーよ、オレってめちゃくちゃ有名人だろぉ? お笑いだけじゃ才能の勢いがとまらなくてよ、市内のゲーセンに通いまくって、動画配信とかもやってん! ガキにはまぁまぁ人気なわけよ。すげーだろ!」
「どこがだよ。拒否られてんだろ」
完全に恥ずかしい大人だ。
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