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・ひとりぼっちの土曜日(微R15/ヤキモチ)
お前なんかにゃ捕まらんぞ
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「はあああああああああ」
辛そうな優兄が脳裏にこびりついてはなれない。ため息がとまらない。
優兄がしんどい時はオレもしんどい。
後頭部に鉄球がめりこんでいるみたいだ。くそ重たい。まるで狂った磁場があるみたいに体がくの字に曲がっていく。
そんな感じで歩いていたものだから、バランスを崩した挙句、床ですべってコケそうになってしまった。
反射的に手をついたのはクレーンゲームの台。
「──あ」
ガラスのむこうの景品が目に入った瞬間、どきっとした。
山のように積み重なったぬいぐるみは、優兄の大好きなキャラクターだった。
かがみもちみたいなフォルム、やわらかいのが一目見て分かるほどのふっくら加減。
顔の中心に点の目と口のような線があるだけの極限までシンプルなデザイン。
(……こいつを持って帰ったら、元気になってくれるかなぁ)
一回300円の台にすぐさま500円玉を放り込み、チャレンジしたものの、クレーンゲームなんて五年ぶりぐらいだ。
とれるはずがない。
クレーンがちょっと持ち上げても、ころりと転がってしまう。まんまるフォルムが腹立たしい。
『お前なんかにゃ捕まらんぞ』と言わんばかりに逃げていく。
「くそっ」
気づけば二枚、三枚と500円を投下していた。優兄のためだと思うほど、熱が入る。欲しくなる。
当のぬいぐるみにはその気持ちが伝わらない。
(優兄だいじょぶかな……今頃うなされてないかな……)
気分転換のために来たはずなのに、あたまの中は優兄のことばかり。
心配だからいますぐ帰りたい。けど、まだ家を出て一時間も経っていないから帰れない。
気づけば五千円札を両替して、大量の百円を投下していた。
このままじゃ小遣いが底をつく。ぜんぶ溶かされてしまう。
でも、いまさら諦めたくない。
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