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19 もっとピンチです!!
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しおりを挟む「──ぎゃっ!?」
まるでボクの悲鳴を合図にしたかのごとく、まばゆい光が部屋にともった。あまりの明暗さでくらんだボクは思わずぎゅっと目をつぶった。
恐怖と緊張で縮こまった身体にロープが食い込んで痛い──と、思った次の瞬間には痛みがまるでカサブタのようにぺろりとはがれた。
「へ?」
「ケガはないか、アイス」
そう言ってボクの肩を叩いたのは、燃えるように熱い手のひら。
そして、ボクの恋心を見事射抜いた冷たすぎる視線。意地の悪い笑みまじりの優雅な口元。
「黒宮きゅん……!!!」
またしてもボクを助けに来てくれただなんて、王子様すぎる。
でも、ボクの王子様はまるで女王様のごとく、四つん這い状態の泰介さんの背中を踏みつけている最中だった。
泰介さんは怒りにガチガチと震え、ぴっしりとセットされた乱れなき七三頭がみるみるうちにほどけていく。
「クッ……わたしを足蹴にするとは……なんと品の悪い……」
「フン。見たくもないものを踏んだだけだ」
「ほざくな! わたしの大っっっっ切な息子に取り憑いた罪深き悪魔が!」
「思い通りになるときしか息子扱いできないクソ野郎が! 笑わせんな!」
「なんだその態度はああああッ」
泰介さんはいっぺんに身をひるがえして黒宮くんの足首をつかむと、彼の脚を引きずり下ろすように脇へと抱えこんだ。
「お前はわたしの言う通りにすることだけが存在理由! はむかうとは何事!」
「誰が決めたそんな理由ぅううう!」
体のバランスを崩した黒宮くんもタダでは転ばず、泰介さんのアゴを抱え込むようにロックするとグッと締め上げる。
「わはー……しゅごい……夢の親子プロレスだあ……間に挟まれたい……」
親子二人にみっちり挟まれて、二人が繰り出す攻撃を全部ボクが受け止めちゃいたい。最高の親子サンドイッチだ。
そんなことを考えちゃうからボクはレフリー役になることも忘れ、全裸のまんまでぽーっと眺めるしかなかった。
「──おやおや。いけませんね、旦那様も坊っちゃんも。ケンカが少々激しいようで」
頭の後ろから聞こえた穏やかな声。
なんの気配もなく、あまりにも急に聞こえた。
ボクは心臓が止まるぐらいにびっくりして振り返ろうとした──けど、首筋にぴとりとあてがわれた冷たさが心臓以上のものをストップさせる。
「まったく貴方がたは……。こんな堂々巡りを何度繰り返すおつもりなのでしょうか? いつまで経っても歩み寄ろうとすらしない」
──時間がとまったかのようだった。
「終わらないケンカとは、すなわち戦争。……と、すれば尊い犠牲が出るまで終わらないのでしょうか?」
取っ組み合いをしていた二人さえも手を止め、握りあったままで、まじまじとこちらを見つめている。
あまりにも無機質で、あまりにも無慈悲で、みるみるうちにボクの体温を奪うもの──。
ついさっきまでボクの玉にあてがわれていたはずのナイフが、目の下ほんの数センチのところでギラギラと光を放っている。
「いい加減になさってください」
ボクの首にナイフを押し当て、微笑んでいるのは執事の岩泉さんだった。
「待て! そいつを巻き込まないでくれ!」
先に反応したのは黒宮くんだった。けれど、岩泉さんは微笑んだままなにも言わない。
むっすりと腕組みしている泰介さんのリアクションを待っているようだった。
「貴様……。妙なことをすれば、主人であるわたしの責任になるということを分かってやっているのか」
「もちろんです、旦那様。ですがワタクシは生前の奥様に頼まれていたのですよ。坊っちゃんに大切な人ができたとき、旦那様がワガママで身勝手な振る舞いをするようだったら容赦なく脅しなさいと」
「ムダなことを……!」
──なんだか宮田家だけで話がグングン進んでるけど、ボクってなんのために超ピンチになってるの!?
ってツッコミを入れることもできずに息を殺しているしかなかった。
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