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17 しちゃったね、駆け落ち
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◆ ◆ ◆
イチャイチャは後のおたのしみにして、まずはそれぞれお風呂に入った。
ボクとしては一緒に入って泡まみれの彼を抱きしめてキレイキレイしてあげたかったのだけれど、宮田くんは「すぐにアツくなってしまうからダメだ!」と断固拒否。ちぇっ。
なにがなんでも意識を黒宮くんに譲りたくないらしい。
入浴後、きれいさっぱりと模様が消えた腕をさすりながら、彼はポツポツと話してくれた。
父親の泰介さんは海外でとてつもなく有名なアーティストなのだと。
人の身体をキャンバスに、うねりをあげるような植物の絵を描き、刹那的な生命の美しさを表現する。人と自然と芸術の融合は、とてつもなく高い評価を受けているという。
「お父様が最も気に入っている肉体──キャンバスがわたしなのだ」
「そっか、だから『最高傑作』なんだね」
お父さんが宮田くんのことを絶賛していたのは、息子自慢というよりも自分自身のすばらしい作品だと信じて疑わないからだったのか。
「お父様はわたしを一個人として認めてはくれない。父の絵に見合う芸術品となるため、無駄なものを削ぎ落とした人間になれと教育され続けてきた」
「無駄なものって……?」
「最も不要だと言われたのは、父以外の人間を愛する気持ち」
以前、宮田くんがボクに『愛は無駄なもの』と言って別れを切り出したのは、お父さんとの約束があったからだった。
「父を一番に愛さなければ、父はわたしの存在を受け入れてはくれない。父の言うことをおとなしく聞かなければ、父に愛される資格がない。幼い頃からそう言い聞かされてきた」
「そんなの愛じゃないよ。ワガママだよ」
「……そうだろうな。だが、離れられなかった。母はわたしを産んで亡くなった。悲しみを糧に芸術に打ち込む父をわたしはどうしても見捨てられなかった。都合よく父の所有物になっていると分かっていたのに、逃げられない。きっと、そんな矛盾が別人格のわたしを作ってしまったのだろう……」
宮田くんは一息で話し終えると、ふーーっと深い溜息をついた。そして憂鬱な風を吹き飛ばすようににっこりと微笑んで、ボクのほっぺを包み込んだ。
あたたかい両手はせっけんの匂いがする。
「会津くん、キミはわたしのすべてを愛してくれた。面倒な部分も非情な仕打ちもすべて受け入れてくれた。キミのおかげでわたしは──もう一人のワタシも──真実の愛に条件は無いのだと気づけたのだ」
「宮田くん……」
手のひらから感じていた香りがふわっと濃厚になったかと思えば、ボクは反射的に目をつむっていた。
おそるおそる開いてみると、目の前に宮田くんのお顔がある。あまりにもキレイに整いすぎて、生きてるだけで既に芸術。
ずっと直視していたらボクの眼球が茹で上がって、カチコチの玉子みたいになっちゃいそう。
「わたし達を自由にしてくれてありがとう、会津くん」
ボクを返事を待たぬまま彼は、ちゅっ、とキスしてきた。
今度はボクのほうからも宮田くんの首に腕を回し、ぎゅっと密着する。せっかくの唇がすぐに離れてしまわないように。
ボクらはまるで楽器になったかのように、互いの唇でちゅうちゅうと音を鳴らし合った。
吸い合うだけじゃ物足りなくて、ちろちろと舐めてみたり、舌先で弾いたり、わざと息を吹き込んだり。
だんだんと体勢が崩れていくうち、キスでじゃれつきながらも“次の段階”が脳裏をよぎり始める。
黒宮くんとは結ばれたけど、宮田くんとは初めてだから、二度目のヴァージンか。
いや、二人に抱かれたことによって真のヴァージン卒業になるかな。
どっちにしたって嬉しい。
宮田くんのずしっとした確かな重みが、どんどんどんどんボクのほうへとのしかかってくる。
唇と唇がますます強力にくっつき合って照れる。
安心して身をゆだねてくれているのが嬉しい。地球に重力があって本当に良かった。
イチャイチャは後のおたのしみにして、まずはそれぞれお風呂に入った。
ボクとしては一緒に入って泡まみれの彼を抱きしめてキレイキレイしてあげたかったのだけれど、宮田くんは「すぐにアツくなってしまうからダメだ!」と断固拒否。ちぇっ。
なにがなんでも意識を黒宮くんに譲りたくないらしい。
入浴後、きれいさっぱりと模様が消えた腕をさすりながら、彼はポツポツと話してくれた。
父親の泰介さんは海外でとてつもなく有名なアーティストなのだと。
人の身体をキャンバスに、うねりをあげるような植物の絵を描き、刹那的な生命の美しさを表現する。人と自然と芸術の融合は、とてつもなく高い評価を受けているという。
「お父様が最も気に入っている肉体──キャンバスがわたしなのだ」
「そっか、だから『最高傑作』なんだね」
お父さんが宮田くんのことを絶賛していたのは、息子自慢というよりも自分自身のすばらしい作品だと信じて疑わないからだったのか。
「お父様はわたしを一個人として認めてはくれない。父の絵に見合う芸術品となるため、無駄なものを削ぎ落とした人間になれと教育され続けてきた」
「無駄なものって……?」
「最も不要だと言われたのは、父以外の人間を愛する気持ち」
以前、宮田くんがボクに『愛は無駄なもの』と言って別れを切り出したのは、お父さんとの約束があったからだった。
「父を一番に愛さなければ、父はわたしの存在を受け入れてはくれない。父の言うことをおとなしく聞かなければ、父に愛される資格がない。幼い頃からそう言い聞かされてきた」
「そんなの愛じゃないよ。ワガママだよ」
「……そうだろうな。だが、離れられなかった。母はわたしを産んで亡くなった。悲しみを糧に芸術に打ち込む父をわたしはどうしても見捨てられなかった。都合よく父の所有物になっていると分かっていたのに、逃げられない。きっと、そんな矛盾が別人格のわたしを作ってしまったのだろう……」
宮田くんは一息で話し終えると、ふーーっと深い溜息をついた。そして憂鬱な風を吹き飛ばすようににっこりと微笑んで、ボクのほっぺを包み込んだ。
あたたかい両手はせっけんの匂いがする。
「会津くん、キミはわたしのすべてを愛してくれた。面倒な部分も非情な仕打ちもすべて受け入れてくれた。キミのおかげでわたしは──もう一人のワタシも──真実の愛に条件は無いのだと気づけたのだ」
「宮田くん……」
手のひらから感じていた香りがふわっと濃厚になったかと思えば、ボクは反射的に目をつむっていた。
おそるおそる開いてみると、目の前に宮田くんのお顔がある。あまりにもキレイに整いすぎて、生きてるだけで既に芸術。
ずっと直視していたらボクの眼球が茹で上がって、カチコチの玉子みたいになっちゃいそう。
「わたし達を自由にしてくれてありがとう、会津くん」
ボクを返事を待たぬまま彼は、ちゅっ、とキスしてきた。
今度はボクのほうからも宮田くんの首に腕を回し、ぎゅっと密着する。せっかくの唇がすぐに離れてしまわないように。
ボクらはまるで楽器になったかのように、互いの唇でちゅうちゅうと音を鳴らし合った。
吸い合うだけじゃ物足りなくて、ちろちろと舐めてみたり、舌先で弾いたり、わざと息を吹き込んだり。
だんだんと体勢が崩れていくうち、キスでじゃれつきながらも“次の段階”が脳裏をよぎり始める。
黒宮くんとは結ばれたけど、宮田くんとは初めてだから、二度目のヴァージンか。
いや、二人に抱かれたことによって真のヴァージン卒業になるかな。
どっちにしたって嬉しい。
宮田くんのずしっとした確かな重みが、どんどんどんどんボクのほうへとのしかかってくる。
唇と唇がますます強力にくっつき合って照れる。
安心して身をゆだねてくれているのが嬉しい。地球に重力があって本当に良かった。
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