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17 しちゃったね、駆け落ち
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しおりを挟む「……あ、会津くん」
「うん。なあに宮田くん?」
「今から……キミを、な、名前で呼んでみても、構わない……だろうか……?」
「もちろん。呼んで」
「……で、では、やってみよう。……ゆ、ゆーき……祐希、くん……」
「なぁに、徹斗きゅん」
「どぅあああああああ! ダメだ! これではすぐに体が熱暴走をぉおおお!」
以前も二人で来たホテルの和室スイートルームにて、ボクたちはつつましく膝を突き合わせていた。
本当はぎゅっと抱き合って耳元で甘いことばをささやきあってもいいはずなのに、まだ微妙な照れがある。
指と指をつないで、控えめにニギニギし合うので精一杯。せっせっせーのよいよいよい状態。
あのあと二人でお屋敷の廊下を走りに走り、適当な部屋に飛び込んでサッと着替えてから、外界へと飛び出した。
手をつないで走りながら『これって駆け落ちみたい』とうっとりしていたとき、宮田くんが「まるで駆け落ちだね」と微笑んだのがテレパシーみたいで嬉しかった。
白色の長袖シャツに黒色のチノパンという宮田くんの白黒人格そのもののような服装は、とてもよく似合っている。
素材が良い分、ごちゃごちゃとした飾りは必要ない。
唯一、肌に描かれた例の樹が入れ墨のようで不気味だった。
早く消してしまったほうがいいけれど、そのためにはお風呂に入る必要がある。
お風呂に入るということはつまり、いろんなところをキレイにする。
キレイになったら、あとは──。
むちゃくちゃ照れちゃう。
「会津くん……」
「あれ? 祐希って呼んでくれないの?」
「それは……心臓がおかしくなるのでもう少し後にさせてくれたまえ。そ、それよりも」
「うん」
「抱きしめても、構わないだろうか」
自らの太ももを両手でソワソワとさすりつつ、申し訳なさそうにお断りを入れてくる徹斗きゅん。むちゃくちゃかわいい。
返事はとうぜん──。
「いいよ」
ボクがにっこりうなずいてみると、宮田くんは弾かれたようにぴょんと立ち上がった。上手に誤魔化したつもりでも、真っ赤な耳が見えてるよ。
恥ずかしくって視線すら合わせていられない──そう言いたげだ。
白いシャツの背中は汗でしっとりと透け、肩甲骨のラインが雄々しく浮かび上がっている。急いで逃げてきたせいで、彼はいま下着を身に着けていないのだ。
「くっ、くくくくくくクーラーの設定を15℃にしておかなければああああっ!」
「キンッキンだね……」
宮田くんはよっぽど体温を上げたくないらしい。念には念を入れてクーラーの吹き出し口の真下までボクを連れてくると、ぎこちなく手を広げた。
「……で、では……い、いくよ……」
「うん」
両腕の動きがまるでクレーンゲームのアームのようにカクカクしてじれったい。
あまりにも寒すぎて硬直している──のではなく、猛烈な緊張があるせいだろう。
ボクを抱きしめようとする宮田くんのアームの力はあまりにも弱々しくて、情けない。これが本当のクレーンゲームだったら、ボクはおしりすら持ち上がらないだろう。
初々しいのはかわいい。
でもなんだか、もどかしい。
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