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7 王子様にも程がある
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しおりを挟む「み、宮田くん、ってさぁ……、な、なんていうか……」
「ん?」
「ぼ、ぼくとは棲む世界が違うよねっ! レベルがだんぜん上っていうか……」
ぼくとしては全力で褒めたつもりだった。
けれど、それまでずっと微笑んでいた宮田くんの表情はわずかに暗くなった。あまり嬉しくなさそう。
どうしよう。変なこと言っちゃった──。
「会津くん」
「……え?」
「そこに座って」
宮田くんは手のひらで机を示した。
机の上には、小ぶりの茶器と大きな重箱が置かれている。
「う、うん」
ぼくは言われるがままに正座する。
でも座椅子を無視して畳に直接座っていたマヌケっぷりにすぐ気づき、慌てて座りなおした。
「なにも気にせず、楽にしてくれ。ここにはきみとわたししかいないのだから」
(ふたりっきり! ああっ……! やっぱりぼく、これから抱かれるんだ……、抱かれちゃうんだぁああ!)
胸のドキドキがとまらない。興奮しすぎて背中のほうまで痛くなってきた。
鼻息が荒くならないように気をつけながらもじもじと照れていると、机の向こう側にいる宮田くんはシャツの袖をまくり始めた。
「緊張させてしまって申し訳ない。どうしてもきみに食べさせたいものがあったんだ」
──宮田くんのお股のタンパク質ですね! はむはむっ!!
目の前の相手が品のないジョークを脳内に響かせているとも知らず、彼はお重箱をそーっと開けた。上、中、下、の三段。
「わっ……!」
詰まっていたのは、満開の花畑。
「なにこれっ……すごいっ!」
のぞきこむとふわっと甘い香りがただよってきて、張り詰めていた背筋が溶けた。
四季おりおりの花をかたどった小さな和菓子たちが、初夏の光を帯びて、つやつやピカピカと輝いている。
どのお菓子も指先ぐらいのサイズでものすごく繊細。
このまま指輪にしちゃっても違和感が無いだろう。一つ一つが宝石みたい。
高い技術と相当な手間暇がかかっていそう。かなり高価なのが一目で分かる。
「どれも愛らしいだろう? これはわたしの気持ちだ。好きなものから自由に食べてくれ。いまお茶を淹れるから……」
宮田くんはとても慣れた手つきで湯呑にお湯をそそいでいる。
金色の桜の茶筒から出した茶葉を急須に入れたり、湯呑のお湯をもう一度器に戻したり、ものすごく時間をかけてお茶の準備をしている。
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