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6 黒宮きゅん
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しおりを挟む「宮田くん……」
今なら気絶してる。抵抗されない。
尾花沢先生がここに来るまではきっとあと少し時間がかかる。
──と、いうことでボクは迷うことなく宮田くんをぎゅうっと抱きしめた。
盾になって守ってくれた感謝の気持ちをこめてのハグ。
「ありがとう……宮田くん、ありがとう……」
やっぱり乱暴な宮田くんも優しいんだ。好きになったのは間違いじゃなかった。好き好き大好き。
その胸に顔をうずめれば、心臓の音が二つ重なるように聞こえる。ボクと宮田くんだけの音。ぴったりと重なりすぎてリズムまで揃っていくみたいだ。幸せ。
「──あ、いづ、くん……?」
彼の胸の中から穏やかな声が聞こえた。
意識があったことにびっくりして手をひっこめると、上半身を起こした宮田くんは生まれたての子犬のようにキョロキョロとあたりを見回している。
「わたしは……? 授業……、たしか……プールに……」
「宮田くん?」
散らばったカケラを拾い集めるように床を見つめていた宮田くんは、ボクが真下にいることに驚いて「これは失礼した」と丁寧に会釈してくれた。
ボクがズボンをずり下げていることにもすぐに気づいたっぽいけれど、なにも触れず、気まずそうに目をそらしただけ。
ついさっきまでの毒舌暴君っぷりがウソのよう。
──いや、この紳士的な仕草こそ、ボクの知っている本来の宮田くんだ。
「申し訳なかった、会津くん。倒れたわたしを介抱してくれたのだろう? もう平気だ。ここからは自分で……」
立ち上がろうとした宮田くんは、自分の背中が濡れていることにも気づいたらしい。
言葉無く自分の脇腹や胸をさすって、「ふーっ」と細く長い溜息をついた。
慌てている自分を無理やり落ち着けているみたいな仕草。
その横顔はとても辛そうで悲しげで、まるで大好きなぬいぐるみを失くして泣き出しそうな子供みたいで──。
ちくりとした痛みがボクの胸に走る。
「あの、宮田くん──」
「──良かったぁあああん! やっと正気に戻ったのね、徹ちゃまぁあああっ!!」
巨体かつ大声の邪魔者が突如、宮田くんとボクの間に割って入ってきた。
揺れる白衣がまるで終演を告げる幕のようにボクの目の前に降ろされる。
「さっ、保健室帰りましょ! もっとしっかり全身くまなく冷やさなくっちゃっ! そうだっ、あたしと一緒に冷凍ブロッコリーかじりましょ! ボリボリしましょ!」
尾花沢先生はボクのことは一切無視。
不気味なぐらいニコニコしながら宮田くんの脇の下に手を入れ、まるで新郎新婦入場のごとく歩きだした。マッチョ花嫁が強引に引きずり気味。
「あっあっ、宮田くんっ!」
ボクを置き去りに歩きだした宮田くんに思わず声をかけるも、彼は申し訳なさそうに背中を丸め、こちらに視線をくれただけだった。
ほんの一瞬だけ。
静かな瞳はやっぱりものすごく悲しげだった。
雨上がりの落ち葉のごとくしっとりと濡れていた気がしたのは、見間違いだろうか。
「どうしてそんな表情《かお》してるの……?」
思わずこぼれてしまった疑問は、本人に届くことはなかった。
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